「東京公園」青山真治

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不在の中にこそ確かな存在がそこにあり、小西真奈美に見つめ返されるその視線にドキドキしてしまった。

視線をめぐる物語だ。見つめること、見つめ返されること。不在=死が空間を支配し、その不在の空間をカメラは撮り続ける。その不在の空間にこそ、色濃く存在が浮き彫りにされる。

すべてがいい人ばかり出てくる調和的原作を青山真治風に変えたもっとも大きなところは、ヒロ(染谷将太)を死なせたことである。「ノルウェイの森」的な死=不在の友をめぐる三角関係。死んだ友人とその彼女と僕との関係。最初はヒロがそこにいるのに、別の場所に突然現れたりして、存在が不確かで、観客に奇妙な印象を与える。そして光司(三浦春馬)が家を出ていく時の不在の廊下。見送るヒロもいないし、光の変化だけでドアの開け閉めが表現される。これは小津安二郎的な空間の切り取り方だ。不在の廊下。もちろん、小津的な正面ショットの切り返しや、バーのカウンターで酒を飲む二人の動作を同時にさせたりする場面もあり、小津ファンには楽しめる。

幽霊であるヒロの存在は、元カノである富永(榮倉奈々)にとっては永遠の不在として存在し続ける。それは光司(三浦春馬)にとっては、カメラマンである母の死=不在が心の中に存在し続けているのと同じだ。また光司に妻の尾行を依頼する初島(高橋洋)にとっては妻(井川遥)が不在であり、妻である井川遥にとっても、夫の初島が不在だ。ゲイであるバーのマスター(宇梶剛士)は、妻の不在を夢の中までも抱え続ける。そして何よりも姉の美咲(小西真奈美)にとっては、する弟の光司を意識の外に無理やり押し出し、不在にさせて苦しんでいるのだ。存在と不在。

そこにいるのに見ることが出来ない相手。見ないようにしている相手。見えなくなってしまう相手。見えたはずなのにいなくなってしまった空間。視線は不在の空間をさまようばかりなのだ。それを光司はカメラで撮り続け、青山真治監督もまたカメラで不在の空間を撮り続けた。確かに存在したはずの空間を情をこめて。撮ることで、何かを忘れないために。大切なものを写し撮るために。映画とは、不在を撮り続けることなのかもしれない。

そうなのだ。美咲(小西真奈美)が先ほどまで弟と過ごしたソファの不在の空間をおし気に見つめるように、人はいつまでも不在の空間を見つめ続ける。確かにそこにいたはずのする人の痕跡を。

だからこそ、視線が交錯する小西真奈美の見つめ返す視線にドキドキしてしまうのだ。視線は不在の空間を彷徨うのではなく、強い思いで見つめ返されるのだ。弟の光司だけでなく、観客さえもがその視線にドギマギする。このシーンの小西真奈美は素晴らしい。カメラで撮り続ける対象の井川遥にレンズ越しに見つめ返されるより、はるかに強い思いがそこにあるのだ。カメラのレンズを通して、光司は同じように見つめ返されるのだ。撮ることで見つめ返される動作の反復。他者との出会い。あの初めて姉と弟が公園で出会い、視線を交わし合った時のように、再び、姉と弟はしっかりと視線を交わし合い、抱えきれぬこれまでの思いを確かめ合う。このシーンは、とても感動的だ。

そして、ソファに俯いて泣いていた美咲(小西真奈美)の仕草は、富永(榮倉奈々)によって繰返される。ここにも動作の反復がある。「私には光司しかいないのよ。」と光司の部屋に引っ越してきて泣き崩れる富永。俯いて泣く姿は、美咲と同じだ。そして、今度は静かに光司は富永の背中に手をかける。

ラスト、光司と初島夫婦が、家具屋でバッタリ再会し、視線を交わし合うことで視線の物語は終わりを告げる。つまり、この映画の物語とは、視線が相手を見失い、不在の空間を彷徨うばかりの者たちが、最後は確かに視線を交わし合うまでのお話なのだ。他者と出会い、そこから何かが変わり、何かが終わり、何かが始まる。

初島を原作にあるような礼儀正しい紳士ではなく、子供じみた、みっともない大人にしたのも青山風アレンジだ。最後に初島が酒を飲んでいる公園の木の形が母性的で美しい。公園そのものが、人々をやさしく包んでいるように、われわれの愚かな人間たちを、風や光や木や海などの自然が、やさしく見守ってくれているのだということを思い出させてくれる映画だ。それは、死んだヒロの涙が落ちてくるように、死んだ者たちの視線でもあるのかもしれない。

原作:小路幸也「東京公園」レビュー

製作年: 2010年
製作国: 日本
日本公開: 2011年6月18日
上映時間: 1時間59分
配給: ショウゲート

監督・脚本・音楽: 青山真治
原作: 小路幸也
脚本: 内田雅章 / 合田典彦
音楽: 山田勲生
撮影: 月永雄太
キャスト:三浦春馬、榮倉奈々、小西真奈美、井川遥、高橋洋、染谷将太、長野里美、小林隆、宇梶剛士


☆☆☆☆☆5
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