「風花」川上弘美

大好きな作家、川上弘美の最新小説。
少しづつ、読み終わるのがもったいなくて、楽しみながら読み進んだ。

彼女は「ゆっくりさよならをとなえる」というエッセイのあとがきで、連載エッセイを書いていると、最終の回になると、さみしくてたまらなくなると書いている。


そもそもさみしいから文章を書いているのに、書くことによってますますさみしくなる。難儀です。でも生きているから、生きのびてこられたから、さみしさも感じられるわけです。難儀もまたよろし、ですね。

そう。川上弘美の小説はそんなさみしさをいつも持っている。そこが魅力だと思う。

ただ、この「風花」。読後の感想としては物足りない。

とてもまっとうなお話だからか…?川上弘美がこれまで誘ってきた奇妙で可笑しな世界。境界が曖昧となるような不思議な世界へちっとも入り込まずに、今回は丁寧に丁寧に主人公の女性の心の襞や底に沈殿しているような澱(おり)みたいなものを掬い上げるように文章で綴っていく。

結婚、不倫、無言電話、旅、引っ越し、離婚…。
まぁ、そんなありきたりな夫婦のお話だ。

夫の不倫相手の里美や沖縄に一緒に行った友の唐沢知子が、異常なまでに旺盛な食欲で主人公の<のゆり>を圧倒する。そんな食欲をあまり示さない彼女が、最後に夫婦二人が行き着いた旅の終わりに、泣きながらも、「おなか、すいた」「ラーメンでも食べて帰ろ」と言えるまでの<食べること>をめぐってのお話でもある。

また、「小説って、何が面白いの?」と小説を読まない卓哉が聞くと「なんだかこう、知らない人たちが知らないことしてるのに、だんだん親しい感じになっちゃうのが、面白い、のかなあ」と答えるのゆり。そこには、のゆりの何かを求めるさみしさがあり、そんなさみしさをなんとか自分で埋められるようになるまでのお話でもある。

「話さなくちゃ」と思ってたのゆりが、何も話せないまま、今度が卓哉が「話したい」と立場が逆転しつつ、結局話をしても何も距離が埋まらない話でもある。

のゆりの首が「かりん」と鳴る。そんな風な些細な違和感。「かけらのような小さなげっぷが、つぎつぎとのぼって」きたりする彼女は、なかなか自分のことを決められないし、自分の感情を表に出すことができない。怒ったり、悲しんだりすることもなかなかできない。

「みっともないことなんだな、他人と共にやってゆこうと努力することって。」

彼女が自分のさざまな感情を自分で少しづつ発見しながら、ゆっくりと心の内を感じ取っていくまでの物語でもある。だから、きっと彼女にイライラする人も多いだろう。でも、この小説は、そんな簡単に決められないし、表せない静かな心の奥底の「風花」のような、ひらひらとたよりなげに宙を舞う物語なのだ。

(か)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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