「ヘヴンズ ストーリー」瀬々敬久

ヘヴンズ

ある殺人事件をきっかけに絡み合い、つながり合っていく20人を超える登場人物たちの全9章からなる物語。4時間38分の大作だ。死と再生、罪と罰、復讐と哀しみ、怪物と人形、自然と死生観など、神話的なスケールで描かれるこの巨大な物語は、とても見応えがあり、意欲作だ。ただ、やや強引とも言える人物関係の脚本、さらにやや観念的で監督の意図的なものが見え隠れしてしまうところが残念だ。力作であり、意欲的な作品でありながら、ちょっと頭でっかちになりすぎた作品のような気がする。

冒頭は人間に怪物が棲みついた説話が山と仮面を使って語られる。山を背景に遊ぶ子供たちが印象的だ。そして、最初のエピソードで、幸福な家族は、緑のなかにあるなんの変哲もない団地を「楽園」と呼ぶ。しかし、その家族は突然殺され、楽園を奪われた少女(寉岡萌希)の哀しみを軸に様々な物語が錯綜していく。同じように妻と幼子を殺された夫(長谷川朝晴)の復讐を誓う涙の姿に、少女は死ぬことではなく、生きる決意をする。少女にとって、その復讐を誓う男はヒーローになった。

鉱山が閉山して、廃墟になった東北の団地が印象的に何度か使われる。桜の季節から冬の廃墟の団地の映像への転換は美しい。復讐代行業を副業にしている警官(村上淳)が依頼された男(佐藤浩市)を始末する場面。かつて「雲上の楽園」と呼ばれた場所。この同じ場所で、記憶を失った人形師(山崎ハコ)もまた死んでゆく。天国にいちばん近い楽園としての廃墟。

家族が集う場所としての楽園の団地と、失われた廃墟となった死に近い楽園が対比的に使われる。いや地上の楽園である団地はすべて夢でしかないかのようだ。少女(寉岡萌希)がかつてのヒーロー(長谷川朝晴)を海辺の団地に訪ねていくエピソードがあるが、そこでの新たな妻と子と暮らしている団地でのささやかな幸福は、少女の訪問によっていともたやすく壊れてしまう。地上の団地は、復讐代行業をやっている父を失った子供が一人荒れ果てた部屋で暮らしているように、この映画ではいつも空っぽだ。

最初の少女のエピソードで、防波堤で少女が苛められ追い詰められるシーンで、海中からの映像が使われる。水の際は、この世とあの世との境であるかのように。そしてイラストのカモメとともに別のエピソードにつながれ、船で人々が行き交うのを毎日眺めている少年(復讐代行業の男の息子)が登場する。船もまた別世界である海の彼方から人を行き来させるためにあるのだ。

海や山が死と結びついている。あの世とこの世の境。その際を、その境を人々はさまよいながら、死と再生を見つめる。自らの怪物性と怒りと哀しみを抱えて。母の似姿を感じて衝動的に殺してしまった少年(忍成修吾)も、復讐代行業の男(村上淳)も、楽園から突き落とされた少女(寉岡萌希)も。人形師(山崎ハコ)は記憶を失いながら、自らが少年の人形と化していく。

少女である寉岡萌希が、だんだん大人っぽくなっていく。不安気な幼い顔から強固な意志を持った眼差しへと変化していく。映画を通じて確かな時間が流れていることを実感でき、それがこの映画を支えている。怪物である人間そのもの、そして自らの内にある怪物を、死を生を見つめてきた少女は、愛しきものの死に立会い、少年は新たな命の誕生に立ち会う。このへんのラストの赤ちゃん誕生のエピソードはやや図式的であり、なんか強引で興醒めだった。



製作年 2010年
製作国 日本
監督: 瀬々敬久
脚本: 佐藤有記
音楽: 安川午朗
撮影: 鍋島淳裕 / 斉藤幸一 / 花村也寸志
キャスト:寉岡萌希、長谷川朝晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜、栗原堅一、江口のりこ、大島葉子、佐藤浩市、柄本明、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、菅田俊、光石研、津田寛治、根岸季衣、渡辺真起子、長澤奈央、本多叶奈、諏訪太朗、外波山文明

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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