「原発報道とメディア」武田徹

「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい」

とは物理学者・寺田寅彦の言葉だ。これは、寺田が浅間山の小噴火を目にして、噴火近くにいても自分は大丈夫と信じて「怖がらな過ぎる」人もいれば、安心だと何度言われても信じられず「怖がり過ぎてしまう」人もいるのだと書いたそうだ。武田徹氏は、この寺田寅彦の言葉を引用しつつ、今回の原発事故でのメディアも同じだと書く。

マスメディアは、特に知らずにいても安心していられた状態から、すべての安全を確認しなければ不安で仕方がない状態へと社会を疾駆させることに貢献し、さらには政府が安全と繰返してもそれを認めない心理の形成に至った。つまり一貫して安心感を醸成する役目を果たせていなかったのである。

「驚き」「新奇さ」「断絶」「非連続」などの特性を備えた情報を取り上げて報じ続けてゆくマスメディアというシステムは、情報価値のある刺激的情報を次々に飲み込んでは生き続ける不死の怪物的生命体なのだ。


一方、マスメディアとは別のもう一つの可能性として登場してきたネットメディアの危うさについても触れている。ツイッターはソーシャルメディアと呼ばれるが、そのソーシャルの意味は「公的な社会」というよりも、声への共感を基礎に形成される「社交」関係に近いのではないかと、武田徹氏は書く。

ツイッターは自分の求める声を聞き、それを復唱し、リツイートしてゆく場なのだ。つまり、相互承認を重ね、更にそれを求めてゆく場ではあるが、社会的承認を求めて、公共性、公益性の観点から評価にさらされる場ではない。

ネット上のコミィニティは現実のコミュニティと同じく、価値観を同じくする集団なので、同じ声の共振共鳴がありえる。そうしたツイッターの特徴を思えば、それをジャーナリズム・メディアとして安易に期待するのは危険だろう。


だからこそ、自分の聞きたくない声を敢えて聞くようにそれを用い、自らの属する共同体の限界を超えてゆく工夫を心がけることも大事なのだ。ツイッター礼讃は、イランに続いてチュニジアのジャスミン革命、エジプト革命でも反復され、3.11に至った。しかし安易なツイッター礼讃は危険なのだ。

相互に交流があるとすれば全面的に相手の主張を批判するリツイートでしかない。とはいえ、140文字の中で相手の言い分を聞いて細かく反論することは不可能であり、「詭弁!」で一言で切って捨てるような批判しかできない。かくして安全・安心観を異にする二つの共同体が対話を拒否したまま向かい合う膠着状態は、ツイッターに更に強調・拡大されて示されていた。


そして「絶対安全神話」をそのまま裏返したような「絶対危険神話」を形成してゆく。ジャーナリズムの使命が価値観の異なる共同体を横断する議論を育み、共通の着地点を提供することで諍いを鎮めることにあるとすれば、ツイッターはその使命を果たしていないのだ。だからこそジャーナリズムは、ネットメディアとマスメディアの両方を使いながら、二元論を超えて議論する場を提供し、考え方を提示していかなければいけないのだ。

最後のあとがきで、武田徹氏はジャーナリズムの言語について書いている。

ジャーナリズムの言語は、詩と対照的に現実を説明しようとするものだ。周囲の状況への小さな違和感を記す日記のように、日常生活の中で感じた違和感をきっかけにその事実関係を調べ、必要あれば言葉を尽くして事情を説き明かし、異議申し立てを行い、公共的な社会問題として受け手に向けて訴えてゆくことこそジャーナリズムの根本的使命だ。
だが実際のジャーナリズムはこの使命を時に裏切っている。証拠が挙がるより以前に容疑者の「怪しさ」を印象づけるような表現がしばしば使われる。


「自分たちだけの安泰を望む人たちの気持ちに応える形で、「安全・安心」という言葉が流行語になっているような状況には虫唾が走る。」と書き、そうした「安全・安心」志向に対しては、今まで以上に批判的でありたいと武田徹氏は言う。誰もが「ここにいていい、生きていられる」と最低限思える安全と、それにもとづく安心感を持つこと。「基本財としての安全・安心」の実現を、社会的問題を発見して広く伝え、共に考えていこうとすることこそ、ジャーナリズムの目指すべきひとつの目標だと言うのだ。

他者を排除するのではなく、寛容さを持って他者の声を聞き、議論を戦わす場を提供すること。感情的にならずに冷静に話し合うこと。そのことからみんなが考え何かを導き出す姿勢こそ、ジャーナリズムが果たす役割なのではないかと改めて考えさせられた。

(け)
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