「国家論」田原総一朗+姜尚中+中島岳志

「国家論 僕たちは、いまどこに立っているのか」3人の論客が10時間にわたって「国家」について徹底討論した本である。去年の2010年4月に中公新書ラクレから発刊されている。

この国では戦後、国家を論じることはタブーだった。経済しか論じられなかった。しかし、冷戦構造が崩れ、日米貿易摩擦が始まり、日本のアイデンティティが問われるようになった1990年代半ば頃から国家について語られるようになったという。戦後日本は日米安保のもとで守られ、経済だけを成長させることができた「おむつをはいた巨人」だったと姜は言う。しかし冷戦は終わり、リーマンショックもあってアメリカ中心の安定した世界は崩れ、アメリカもヨーロッパも経済が行き詰まり、中国やインドなどアジアの力が台頭。「おむつを脱がされた日本」はどうすればいいのか。時代の転換期を迎え、今、日本の国家のあり方が問われているという話だ。

昭和10年代の時代のターニングポイントになった満州事変の頃と現代の類似性を中島が語り、世論が極端な方に急に振れる危うさがあると指摘する。民主党の政権交代などの期待が失速し、社会が膠着化すると「強いリーダー」が求められ、ナショナリズムが台頭する。

国家の本質は暴力であり、暴力を合法的に占有できるものというのがマックス・ウェーバーの定義だ。国家以外は暴力を使うことができない非合法なものになる。それがテロとクーデターだ。田原は「必要悪としての国家」を認め、国家の悪い面が強くならないように監視し、市民社会のコミュニティの大切さを語る。

中島は、安保・全共闘世代以降、ずっと日本の若者は「反乱」を起こしてこなかった、その理由として思想的にポストモダンの影響が大きいと見る。浅田彰は「世界の本質なんて存在しない。所詮、すべてのものは言葉によって名付けられたものにすぎない。」だとすれば、「このなかで戯れて生きるしかないじゃないか」という態度を示し、ニューアカ・ブームは消費主義に流れた。宮台真司は「生きることの意味から離脱」し、「終わりなき日常を『ただ生きる』こと」、「まったり生きればいい」というメッセージを発信した。しかし、そんな観念論も行き詰まり、閉塞感の中で時代は再び「生きる意味」へと回帰していき、空虚感や空白が生まれたと言う。そんな時に小林よしのりの「ゴーマニズム」が現われたり、秋葉原連続殺傷事件が起き、危険な徴候が生まれていることを中島は指摘する。秋葉原殺傷事件の犯人の男は、「おれは存在する理由がない。誰からも求められていない。おれなんていなくてもいいんだ」と承認されないことに追い詰められる。

そして少子高齢化を支えるために国家が税金で全部負担するというのは無理だ、地域の相互扶助力を高めて、国家の再分配だけに頼らなくても何とか生きていける社会的包摂の再構築が必要だと中島は語る。人と人が繋がった社会、「自分が認められている」という承認感が得られる社会をどうやったら築いていけるか、「地域コミュニティ」の政治参加意識が重要だと話す。そして姜は、孤独と不安から逃れ、生きる意味は「愛」によってのみ応えられると言う。

最後に3人は、アジア主義について語り合う。大東亜共栄圏では、日本がアジアの盟主になろうとして大きな過ちを犯したが、いまこそアジアと連帯すべきだと語り合う。それは日韓が軸になって、東アジアをまとめ、覇権国であるアメリカと中国とどうつきあっていくかを模索する・・・そんな未来が語られる。

姜は「日本の琉球化」を目指せと言う。琉球王国は中国と日本の超大国とバランスを保ちながら、武器も持たずに芸能的な接待で約270年やってきた。現代の日本も中国とアメリカという超大国に挟まれ、軍事大国という選択肢は難しい。アメリカとアジアという両輪の中で、安全保障という国際的なバランスをとりながらやっていくことは重要だ。それは同時に国内では、中央集権と地方分権のバランス感覚も必要だと締めくくられている。

市場にすべてを委ねる新自由主義的「小さな政府」が経済的にも行き詰まり所得格差を拡大させた一方、「大きな政府」でどこまで富の再分配をし、社会保障をしていくのか、社会主義的になることの官僚化や硬直化などの問題点も抱えながら、国家がどういうバランスとして今後機能していくべきなのか。国際的なアジアとアメリカとのパワーバランスや安全保障の問題など、日本という国家のあり方について考えさせられる一冊だった。

(こ)
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