「日本の大転換」中沢新一 (集英社新書)

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この本は、中沢新一が考えている「緑の党みたいなもの」の<荒削りのマニフェスト>だ。
今回の大震災と原発事故は、「日本文明が根底からの転換をとげていかなければならなくなった」、「私たちは否も応もなく、未知の領域に足を踏み入れてしまったのだ」、今こそ「日本の大転換」の時だと言う。
簡単に要約すると・・・。

原子力発電は、「生態圏の外部に属する物質現象から、エネルギーを取り出そうとする技術」で、生態圏みずからの力で修復できる地震や津波による損傷とは根本的に違うのだ。生態圏の外部、「太陽圏」の物質現象が生態圏に及ぼしたものの影響を、長い時間かけてでも癒していく能力を、私たちの生態圏はもっていないのだ、と言う。

これまでの「第一次エネルギー革命」である火の獲得から「第六次エネルギー革命」の石油の利用にいたるまでは、原子の外殻を形成する電子の運動から、すべてのエネルギーが取り出されている。しかし、「第七次エネルギー革命」の「原子力の利用」は、原子核の内部にまで踏み込んで、そこに分裂や融合を起こさせて、化学反応や電気反応ではとうてい実現できない莫大なエネルギーを、物質の中から取り出した。これによって、生態圏の「内部」に、ほんらいあるはずのない「外部」が持ち込まれた。これは、一神教の思想とよく似ていると宗教学者でもある中沢新一は指摘する。

かつて神々は、動物の姿をしたり、人間の男や女の姿をしていたり、山や川の女神であったり、動物界や植物界を支配する神であった。しかし、『旧約聖書』でモーゼが燃えさかる火の中から語りかけられた神は、そういう環境世界に所属しない絶対的な神で、むしろ環境世界の外部にいて、そこから世界そのものを創造した神であった。生態圏の内部にあったアニミズムや多神教の神々は、どんなに超越的な振る舞いをしても、生態圏の全体性の表現になっていた。しかし、一神教はその生態圏に、本来そこに所属しないはずの「外部」を持ち込んだのだ、と言う。

そしてそんな原子力利用や一神教の思考は、同時に資本主義の姿とよく似ていると話が展開する。資本主義という経済システムは、「社会」という人類にとっては大きな意味を持つ「サブ生態圏」の内部に、それとは異質な原理で作動する「市場メカニズム」を持ち込んで、社会そのものを変質させてきた。資本主義以前の世界では、人間と生態系の間に、「キアムス(交差)」構造があり、社会が人間の心のつながりでできていた。かつての市場交換には、自分と外部とをつなぐ回線が確保され、「贈与」の概念があったのだ。ところが、資本主義の発達とともに、そのつながりは失われ、市場原理による貨幣の等価交換へ、「モノ」は「商品」になっていく。「縁」が断ち切られ、「無縁」の品々としての商品。売り手と買い手はクールな態度で交換し、交換価値=貨幣価値のみが意味を持つことになった。

そこで、中沢新一は「第八次エネルギー革命」を目指し、生態圏の内部に太陽圏的現象を直接・無媒介に持ち込むことを否定し、ふたたび太陽エネルギーは変換・媒介され生態圏に取り組むさまざまなインターフェイス技術を通して実現されるべきだと主張する。太陽に直接向かい合い、そこに中庸を作り出す媒介を差し挟むことによって、中庸な質と強度のエネルギーを持続的に生み出していく技術を開発していくことが必要だと言う。

さらにその一神教的思考を否定する中庸の思考とは、仏教の思考だとも言う。 仏教は自然宗教である神道をとおして、自然の具体性と結合してきた。仏教的な中庸の思考は、媒介的インターフェイスを駆使した、来るべきエネルギー技術に対応していると考えられる、と。

つまり「脱原発」とは、単なるエネルギー政策ではなく、「脱資本主義」への変化でもあり、未知の「来るべき経済システム」を目指すものなのだ。太陽エネルギーからの贈与性は、経済活動の根底を支えてきた贈与性を呼び戻すと言うのだ。

そもそも日本は周縁(リムランド)に位置し、火山を抱え、プレートは複雑に出会い、地質学的に安定していない。大陸の巨大国家のように自然力を外に推し戻したり、ブロックするのではなく、インターフェイスの機構を通じて、媒介的に自分の内に取り込むことを学んできた。インターフェイス型の思考が発達しているのだ。経済でも市場原理だけではなく、相互の媒介関係が長い間保たれてきた。日本のようなリムランド型文明は、グローバル資本主義や原子力発電のような、中心部の文明とは異質なのだ。新たな豊かさを取り戻すために、そういったインターフェイス型思考を取り戻し、エネルギー、そして経済の大転換が必要だと言うのだ。


<『太陽と緑の経済』>という補遺で、さらに経済の転換について書かれている。

人間は原子炉を「発明した」と思い込んできた。原子力は自分の力でコントロールでき、「脱=生態圏」を果たしたエネルギー源であると。自分たちが利用している熱や光は「他者からの贈与」であるという意識が、原子力発電によって消え去ってしまったのだ。それを自然再生エネルギーを活用することで、もう一度その贈与の思考を取り戻そうと言うのだ。

経済活動の基底の部分には、市場の外部にあった人やモノが、敵である状態を停止し、味方である状態に「変換」されることから、交易が発生する。「コミィニティに入れる」「敵を味方に変える」作用としての「媒介」「変換」「贈与」が経済の基底としてあった。それが市場の発達とともに、そのことは忘れられ内部と外部がくっきりと区別され、両者をつなぐ回路は失われた。

それを、自然エネルギーへの転換によって、贈与=キアムス構造を持った別の交換原理が組み込まれた経済へと変化させようということだ。たとえば、「地域通貨」。地域の人と人を結びつける通貨。社会形成の潤滑油の働きをする通貨という考え方。

個人の太陽光発電や地域が管理する風力発電やバイオマス発電の発達による「モジュール化」。地域や個人が、太陽エネルギーからの贈与に向かって開かれたモジュールを利用しながら、新しい生活スタイルを形作っていく可能性。モジュールのネットワークでできた世界。「太陽と緑」が象徴する新しい思考が新たな社会を実現できるか、ここに書かれた理念が、大きなヒントになるかもしれないと思う。

自然からの贈与、経済活動としての贈与、インターフェイス型思考、外部と内部がつながる回路、地域の人と人とにつながり・・・。これらの言葉が未来のキーワードなのかもしれない。

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