「マイ仏教」 みうらじゅん(新潮新書)

漫画家・イラストレーターのみうらじゅん。80年代以降のサブカルチャーの担い手。「マイブーム」という言葉も彼が広めたらしい。彼は人生を面白がる達人だ。そんな彼が小さい頃から好きだったのが「仏像」だったという。そんな彼のブームのひとつとしての仏教との関わりについての本である。決して難しい仏教話ではない。

「仏像ブーム」のきっかけは「怪獣ブーム」からだったと言う。ゴジラ、モスラ、ラドン、キングギドラ、そして「ウルトラQ」のテレビ放送などをきっかけとして、多くの少年達と同じように怪獣に夢中になった。そこから、彼は祖父の影響を受けて「仏像」が「怪獣みたいでカッコイイ」と思うようになり、仏像スクラップを始めたという。仏像写真集を集め、お寺めぐりを小学生がしていたという。聖観音像のように穏やかで慈悲溢れるものから、異形の荒々しい密教的な仏像まで、みうら少年は惹かれていった。そして彼は住職になりたいと思い、仏教系の中学校に通うことにする。

仏教系の中学校へ行って思う存分「仏像」話で友達と盛り上がろうと思ったら、さにあらず。誰もそんな仏像話など興味なかった。彼は次第に仏像ブームから、ボブ・ディラン、吉田拓郎へ、音楽へと興味は移り、仏教から一度足を洗う。しかし、美大に入るきっかけとなった横尾忠則と出会うことで、再び仏教と出会う。ロック=アートの時代。ジョン・レノンもキース・リチャーズもエリック・クラプトンもアートスクール出身。横尾さんのアートからもロックを感じたという。ロックと仏教の融合。その後、イラストやマンガを書くようになり、再び仏教から離れるも、イカ天で「大島渚」としてバンドデビュー。いとうせいこうと出会い、お互いに仏像への秘めた熱き思いを語り合い、「大日本仏像連合」(大仏連)を結成。再び仏教への思いを強くしていったようだ。

仏教には「四法印」の教えがある。

諸行無常・・・われわれの認識するあらゆるものは、直接的・間接的な様々な原因(因縁)が働くことによって、現在、たまたまそのように作り出され、現象しているに過ぎない。あらゆる現象の変化してやむことがないということ。人間存在を含め、作られたものはすべて、瞬時たりとも同一のままではありえないこと。

諸法無我・・・いかなる存在も不変の本質を有しないこと。すべてのものは、直接的・間接的に様々な原因(因縁)が働くことによってはじめて生じるのであり、それらの原因が失われれば直ちに滅し、そこにはなんら実体的なものがないということ。したがって、われわれの自己として認識されるものもまた、実体のないものでしかなく、自己に対する執着はむなしく、誤れるものとされる。

一切皆苦・・・仏教は生まれたままの自然状態、すなわり凡夫の状態は迷いの中にある苦としての存在と捉え、そこから脱却して初めて涅槃という楽に至ると考えて、この迷いの世界のありさまを<行苦>と表現する。

涅槃寂静・・・煩悩の炎を吹き消された悟りの世界(涅槃)は、静やかな安らぎの境地(寂静)であるということ。



仏教では、「無我」つまり「本当の自分」なんてものはない、ということを二千五百年前から説かれている。みうらじゅんは、「自分探し」よりも「自分なくし」の方が大事だと語る。お釈迦さんのように、「自分探しの旅」ならぬ「自分なくしの旅」を目指すべきだと。

「本当の自分とは何か」「自分らしさとは何だろう?」とどれだけ真剣に問うでも、答えなど出るわけがない。自分というものがいちばん厄介で面倒臭いものだから。だからといって「自分をなくす」のは難しい。
そこでまず、誰かに「憧れ=なりたい」と思うことだと彼は語る。円谷英二もお寺の住職もボブ・ディランもしかり。「その人になりたい!」と思って、必死で真似していると、自分はなくなっている。誰かを好きになって夢中になることが、自分をなくす技術を獲得することでもあるのだ。

そして、リスペクトしてどうしても真似しきれなかった余りの部分、それが「コンプレックス」であり、それこそが「自分」であり、「個性」なのだ。若いときは、個性というものを「自分オリジナルのもの」とはき違えてしまいがち。しかし、難しいのは、年をとると積み重なった「自分らしさ」が邪魔をして、すんなり他人に憧れることができず、自分を変えることに抵抗を抱くようになる。「自分なくし」とは、自分を変えるためにリセットするという考え方だが、ついつい煩悩が積み重なり、自分らしくなってくると、変化を拒むようになる。

諸法無我。自己など実体のないもの。自己に対する執着こそ、煩悩を重ねることであり、幻を追い求めているに過ぎないのだ。


また、人間は他人と比較をして、初めて自分の立ち位置を認識する。比較できるからこそ人類は進歩したのかもしれないし、比較こそが苦しむを生む原因なのかもしれない。「他人と過去と親」、この三つと自分を比較してはいけないのだ。これをみうらじゅんは「比較三原則」と呼ぶのだそうだ。
この世界が諸行無常で諸法無我なのだとしたら、比較しても仕方ないし、優劣などない。

彼はどんな辛い時も「そこがいいんじゃない!」とポジティブな言葉で考えるという。言葉を発することで、脳を能動的に方向づけるのだ。それは念仏を唱えるのようなもので、言葉を発することでパワーが出てくるというのだ。

よく「自分で自分がわからない」と嘆く人がいるが、そもそもわからないのが普通であり、わかってしまうともっと落ち込むかもしれない。「自分を見失う」という言葉も、その程度のことなのだ。だからこそ、自分でしつけ直すのもまた自分なのだ。

このような仏教の自己に対する考え方は、とても共感できる。あらゆるものは姿かたちを変え移り変わり、諸行無常。そして、自己というものもまた実体のない不変のものではない。つまらぬ執着を捨て、変わり続けること。そこに生きるヨロコビが見出せればいいのだろうと思う。
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