「日本の食糧が危ない」中村靖彦(岩波新書)

中村靖彦氏は、NHKで農業・食糧問題を担当し、解説委員などを経て、米価審議委員などを歴任。日本の食糧の安全保障の観点から食と農業について提言した本である。TPP参加問題など、日本の進むべき道を考える上で参考になる。

日本のレタスの一大産地である長野の川上村の高原レタスが、今や中国人労働者によって支えられている現実を指摘。東日本大震災以降、多くの農業現場では、中国人労働者が帰国し、労働力不足で困り果てている。中国人に頼りきっている日本の農業事情。このままでいいのか?

これまでの農業政策の複雑さと補助金に甘えるコメ農家の体質。戸別補償制度の問題点。コメ以外の兼業収入に依存しているコメ兼業農家に所得の補償をする必要があるのか?圧倒的に多いコメ農家への補償は、選挙のための票獲得が目的ではないのか?戸別所得補償をもらうために、貸していた水田を返してもらう「貸し剥がし」は、足腰の強い農業を育てることになっているのか?農業規模の拡大ばかりが注目されているが、小さくても熱心な兼業農家もある。規模の大小ではなく、長く続く経営体であるかが大事。畑作への戸別補償など、本当に強い農業にするための制度の磨き上げと整備が必要だという論旨。

また、「農地の公有化」についての提言もある。減り続ける農地、耕作放棄地の問題、農地の所有から利用へ、私的資産ではなく公共財としての農地の考え方。本気で土地利用型農業の規模拡大を考えるのなら、農地の私権を認めたままでは不可能だと、著者は指摘する。農地の有効利用を国全体で考えなければいけないのかもしれない。

世界の食を呑み込む中国。中国の大豆の輸入は急増し、日本の使用料の12倍。ほとんど食用油に利用されるらしい。豚肉などの食肉需要が増え、その飼料であるトウモロコシの輸入も急増し、世界の穀物市場をかき乱している。貧しい農村と都市との収入格差も広がり、農村から都市へと人が流れ、農業人口も減りつつあるという。世界的な穀物不足、干ばつなどがあれば各国は自国の需要を優先させる。日本の食料の安全保障という意味でも、検討すべき課題は多い。

そのなかで著者が注目するのは、家畜のエサである。ほとんどトウモロコシなど輸入に頼っている家畜の飼料。これを自給できるように新たな試みが注目されている。ひとつは、飼料用のコメの栽培。茨城の和牛繁殖牧場では、水田に実った稲を直接牛に食べさせているという。稲作農家と畜産農家の連携。また養鶏、養豚業者でも、飼料米をエサにする試みも始まっている。耕作放棄地でのほったらかしで、手間をかけずに安く作る飼料米。戸別補償制度の対象になっているが、飼料米農家は自分たちで需要先を確保しなければならない。制度の整備も含めて、各地の農政局で情報を一元化し、飼料米の利用、広まりに期待したい。

また、食品産業の残渣を利用して飼料にするエコフィードというやり方も注目されている。豆腐工場で廃棄物となる栄養たっぷりの<おから>を利用したり、製造業、卸売・小売・外食産業から出る大量の残渣をリキッド化したり、乾いた粉末状に加工して、飼料にするやり方だ。家庭の生ゴミは使わない。2011年で約1130万トンも出る食品の残渣を肥料だけではなく、家畜のエサとして有効利用する試みも注目だ。

今、政府ではTPP参加問題が議論の対象になっている。環太平洋パートナーシップ協定。農業問題ばかりに焦点があてられるが、サービス貿易や知的財産、人の移動の問題もある。介護や看護師、弁護士などの海外人材流入で何が変わるのか。また円高不況の今、自動車などの輸出がどこまで増えるのか疑問もある。経産省と農水省から出されているTPP影響のそれぞれの試算は、あまりにも大雑把で作られた数字で意味がない。あらゆる品目の関税撤廃、自由貿易を前提にしたこの協定が、経済界にとってメリットがあり、本当に日本の農業を強くすることになるのか。9カ国の協定交渉で、アメリカなどの輸出大国に振り回されるだけではないのか?TPPよりも、FTA、EPAなどの二国間交渉で、お互いの貿易上の利点と弱点を話し合いながら進めるほうが得策ではないかと著者は指摘する。

韓国では農業生産より物流に力を入れていこうとしている。韓国では国内で物流の拠点を発展させ、農業生産を海外の農地買収をして行おうとしている。果たして日本は韓国を追いかける必要があるのか。

コメを特別扱いしてきたために、日本の稲作農家の足腰が弱くなった面もある。日本のような狭い国土では、コメや小麦などの土地利用型農業は限界もある。強い農業に育てるために何が必要なのか。担い手・後継者問題も含めて、食料の安全保障という観点から、日本がどういう国を目指すべきかの議論が必要だ。政府を批判するだけのメディアのあり方に問題もあり、食の未来の問題をみんなで考える時期に来ていることは間違いない。


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