「鬼火」 望月六郎

鬼火

原田芳雄追悼映画特集ということで、蠍座で観た。原田芳雄の優しさとタフさの魅力が存分に発揮されている映画だ。

静かなピアノの旋律「ベニスの舟歌」が全編流れるなかでの暴力と性と愛。同名のルイ・マル監督の有名な映画(1963年フランス「鬼火」)はモーリス・ロネが自殺するまでの最後の一日を描いていたが、エリック・サティの静かなピアノ曲が同じように流れていた。ちなみに北野武監督の「その男、凶暴につき」でも、ヤクザの暴力映画にサティの静かなピアノ曲が使われていた。暴力のストイックさと静かなピアノ曲はなぜか似合う。

望月六郎監督はスケベだ。いや、女の性をいやらしく描くのが巧い。アダルトビデオ出身の監督だが、とても叙情的な男のロマンチシズムを描きつつ、性愛を描くのがとても巧いと思う。「極道記者」「新・悲しきヒットマン」「皆月」などいい作品をいっぱい撮っている。最近、あまり名前が聞かれないのが残念だ。川上麻衣子、吉本多香美、そしてこの映画の片岡礼子など女優を魅力的に演出している。また、 奥田瑛二が数多く望月監督作品に出演していて、ヤクザなダメ男を好演している。抑えた演出で、ダメで哀しく愛おしい人間の魅力を引き出すのが巧いのだろう。

この作品で、刑務所帰りの伝説の火の玉・極道クニさん(原田芳雄)が、クラブで見初めた女アサちゃん(片岡礼子)と暮らしている場面で、寝ているアサちゃんの下着姿を蚊帳越しに見つめるシーンがある。クニさんは真面目な極道だから簡単に彼女に手を出さない。しかしそれはある意味セックスシーンより、なまめかしいのだ。抑制こそが、エロティシズムなのだ。

そして、暴力もまた抑制される。クニさんは、金稼ぎに走る現代の極道と一線を画し、意味のない暴力はしない。ヤクザの組の運転手として雇われ真面目に働く。暴力を封印するのだが、あるとき仕方なく噴出する。一緒に暮らしていたオカマ(北村一輝)が殺されても、「生き返るわけじゃないし」と無闇な仕返しはしない。しかし、自らの暴力性を抑えることはできない。ヤクザの哀川翔が、ヤクザは暴力なんだと語る場面も印象的。

その抑制こそが、この映画の魅力だ。クニさんとアサちゃんが犬を連れて散歩するシーン。犬を殺せなくて泣き出すアサちゃん。あるいは、学校の講堂でピアノを弾くシーンやプールのシーンは、ロマンチックすぎるほどだ。一緒にアパートに暮らしながら、雑巾がけをするアサちゃんの胸元が見える一瞬のシーンがせつなく愛おしい。クニさんがアサちゃんが殺されるかもしれないと思う場面のストップモーション。

「ベニスの舟歌」とともに水イメージが象徴的に使われている。川べりに暮らすアパート、川に浮かんだオカマ坂田の死体。深夜プールで泳ぐ二人。そして、対照的な火も印象的に使われている。ドラム缶の炎やアサちゃんの過去の写真を燃やす車の炎上シーン。すべてを燃やす暴力の炎と死の水。

ラスト、残された犬を連れて散歩するアサちゃんがいい。オープニングのクニさんが墓参りに行く田んぼの緑と対になっている。緑は生きる力なのか。


監督: 望月六郎
企画: 山地浩
原案: 山之内幸夫
脚本: 森岡利行
撮影: 今泉尚亮
音楽: 神尾憲一
出演: 原田芳雄、片岡礼子、哀川翔、北村一輝、南方英二、奥田瑛二、速見典子

☆☆☆☆4
(オ)
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