「エッセンシャル・キリング」イエジー・スコリモフスキ

キリング

この映画は、生きることそのものが罪であるという人間の原罪を浮き彫りしつつ、そんな罪深き人間の魂の救済を描いた宗教劇のようなスペクタクル映画だ。

イエジー・スコリモフスキ監督自身が、ランボーとタルコフスキーの映画を足して割ったような映画だと表現しているそうだが、このセリフをほとんど排除した映像術に僕はただただ圧倒された。かつて、スピルバーグが「激突!」という映画で、巨大トラックが乗用車に迫って来る恐怖をカーアクションだけで描いたことがあった。具体的な物語ではなく、映像のアクションだけで見せていく強度なサスペンス映画だった。この映画もまた、ストーリーとしてのドラマではなく、単なる追うものと追われるものの台詞ナシの映像、アクションだけで作ってしまった映画だ。

スコリモフの剛腕は、それを単なるアクション映画としてではなく、その範疇を超えて、形而上的な宗教劇に見えるほど、人間の根源性を描き出しているところだ。イエジー・スコリモフ、恐るべしである。

イエジー・スコリモフスキ監督の白黒の初期作品を見る機会に恵まれ、僕は圧倒された。そもそもポーランド映画の「水の中のナイフ」が好きだったので、この脚本がイエジー・スコリモフだったと知って驚いたのだ。「身分証明書」「不戦勝」「手を挙げろ」「パリエラ」。特に「不戦勝」のカメラの長廻ししには驚嘆させられた。さらに「早春」の痛ましいまでの瑞々しい青春映画も忘れられない。「アンナと過ごした4日間」で復活を遂げたが、この映画も密度の濃い視線のドラマになっていた。彼はいつでも冒険的な映画に挑戦してきた。そして、この「エッセンシャル・キリング」は、その最たるものかもしれない。

アフガニスタンでアメリカ軍のヘリコプターから逃げるアラブ兵士という図式に、政治的な意味はそれほどない。しばしばイスラム世界の彼の故郷がイメージとして挿入され、アメリカの圧倒的な軍事力とイスラムの対立が表面的には描かれている。ただこの映画は、そんな図式を超えて人間そのものの究極の姿を捉える。

生きるために人を殺し、アリや木を食らい、人から食べ物を奪い、女を襲い、その母乳までを吸う。生きることは、罪深きことなのだ。命を殺して生きのびる。争っている場合は、人を殺し、平和な時でも動植物の命を殺めて人間は生きている。宗教的意味としての原罪。そう思うと、米軍のヘリコプターは神の目線なのかとも思えてくる。自然の中で生きるということは、そういう罪を背負いながら、神に見つめられて生きてるということなのだ。

そんな罪深き男が、ラスト、女に救われる。暖かい家で傷の手当をされ、白い馬に乗せられて見送られるのだ。無償の愛、母性に救われるのだ。

途中、川の水で血にまみれた手を洗うシーンもあるが、これは生きる原罪としての人間のなまなましい血の赤と、白い世界で覆いつくす救済としての白の物語でもあるのだ。白い馬は、男の血で染まっていき、ラスト、白い馬だけが雪原に静かに佇んでいる。


英題: ESSENTIAL KILLING
製作年: 2011年
製作国: ポーランド/ノルウェー/アイルランド/ハンガリー
日本公開: 2011年7月30日

監督・製作・脚本: イエジー・スコリモフスキ
製作・脚本: エヴァ・ピャスコフスカ
音楽: パヴェウ・ミキーティン
撮影: アダム・シコラ
キャスト:ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ、ザック・コーエン、イフタック・オフィア、ニコライ・クレーヴェ・ブロック、スティング・フローデ・ヘンリクセン、デヴィッド・F・プライス、トレイシー・スペンサー・シップ、クラウディア・カーカ、ダリユシュ・ユジュン

☆☆☆☆4
(エ)
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