「歩いても歩いても」是枝裕和

歩いても

夏のお盆にぴったりの日本的家族と魂と命の映画。

冒頭から引き込まれる。帰省した娘と母の台所での会話。樹木希林とYOUが大根の皮をむきニンジンを削っている。豆をゆでて塩をふる。その料理の美しさと命の輝き。さらには、息子の阿部寛が「昔からこれは俺の役目だったんだ」と手際よくトウモロコシの粒を剥ぐ。天ぷらでそのトウモロコシを揚げていると、そのはじける音を聞きつけて、父親の原田芳雄が食卓に顔を出す。揚げたてのトウモロコシの天ぷらを食べる孫たち。昔の隣の畑のトウモロコシを盗んだ思い出話が「またその話?」とYOUに突っ込まれながら母が語りだす。

どこにでもある家族の光景が食ベものを通じて見事に浮き上がる。そこにあるのは積み重ねられた家族の時間。
しかし、次第に兄の不在が明らかにされる。兄といつも比較される弟のコンプレックス、厳格な町医者の父との確執。家の立て替えを持ちかけながら同居を考える娘と母との距離。子連れの再婚の嫁・夏川結衣と義父母との距離。どこにでもあるような家族間の隙間を、どこにでもあるような会話の積み重ねで描き出す。余計な一言が多い母の言葉や気遣いのない父の一言。「おばぁちゃんの家じゃない。ここは俺が建てた家だぞ」という子供じみた父の一言も笑わせてくれる。そして、子供たちの見事な演出。誰もが、自らの故郷の家族と重ねるに違いない。

そして、舞台となる家の描写も見事だ。お風呂場のタイルは剥げ落ち、年老いた父母とために手すりがつけられているのを見る息子。変わらぬままの死んだ兄の部屋。

小津安二郎や向田邦子など多くの人たちが描いてきた日本的家族風景を是枝監督は、見事に受け継いだ。そして、日常のひとコマから一瞬垣間見える人間の業の怖さも忘れない。

思い出の曲と言って樹木希林が息子の前でかけさせたレコード「ブルーライトヨコハマ」にまつわるかつての夫への秘められた嫉妬の感情。

さらには、海で兄に助けられた少年が、毎年兄の命日に訪れるのだが、もう「参ってもらわなくてもいいんじゃない?辛そうだよ」という息子の一言に「忘れてもらっては困る。一年に一度くらい辛い思いをしてもらわなくちゃ困る」と母の亡き息子への思いと、やり場のない憎悪と悲しみを抱えた感情が露わになる。「あんな奴のために、なぜあいつが死ななければ・・・」という父の身勝手な感情。

そして、「白い蝶が死なずに冬を越して黄色になって飛んでいる」と言われている「黄色い蝶」を亡き兄の魂が乗り移ったように母が思い込むシーンがある。学校で死んだウサギに手紙を書く友を笑った夏川結衣の冷めた息子のエピソードと重ね合わせて、亡くなったものたちの魂についての日本的霊性が描かれる。生きとし生けるもの、あらゆるものに魂が偏在している日本的感性が、美しい緑や風や石の階段や食べものに描かれているような気がする。

忘れてどうしても思い出せない力士の名前を母と別れたあとに思い出すように
「人生はいつもちょっとだけ間に合わない」。

さまざまな悔恨や失ったものたちの悲しみを抱えながら、間に合わなかった何かを埋めるように、私たちは業を抱えながら、余計なことを言いながら、人を傷つけたり、身贔屓になったり、自分勝手なことをしながら、大切な何かを抱えて、歩いているのですね、きっと。

☆☆☆☆☆☆6

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テーマ : 日本映画
ジャンル : 映画

tag : 家族

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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