「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」大森立嗣

ケンタ

去年公開されて、ちょっと気になっていた映画だけど、見てビックリした。とてもいい。大森立嗣監督は、「まほろ駅前多田便利軒」を観たけど、オリジナル脚本のこの作品は、とても尖がっているロードムービーで面白かった。

大森立嗣監督は、暗黒舞踏家・麿赤兒の長男であり、俳優の大森南朋の兄だそうだ。ちなみに、ケンタを演じた松田翔太はお馴染み松田優作の次男であり、「まほろ駅前多田便利軒」で主演した松田龍平の弟だ。さらに、カヨちゃんを演じた安藤サクラは奥田瑛二、安藤和津の次女だ。柄本明は息子柄本佑と親子で出ているし、宮あおいの兄である宮崎将もケンタの兄役で出ている。二世監督、二世役者のオンパレードだ。ただ、とても志のある映画だ。大森立嗣監督の「ゲルマニウムの夜」も観てみたくなった。

若者たちの苛立ちや貧しさと暴力、行き詰まり感の果ての虚無が描かれている。コンクリートの壁を電動ブレーカーで壊し続ける解体作業員であるケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)。切れたギターの弦のように、彼らの未来は何もない。壊れたままだ。あるのは暴力と憎悪。網走刑務所に収監されている兄(宮崎将)に会いに、ケンタとジュンは旅に出る。暴力には暴力で対抗し、事務所や車をメチャクチャに破壊して。ついて来たカヨちゃん(安藤サクラ)も途中で投げ捨てる。「ブス!」と冷たい言葉を放ち、何の感情も持ちえぬままに。そんな無気力で無目的なケンタとジュンのロードムービーだ。

途中で知り合った若い女(多部未華子)は、とってつけたような夢の人生設計をジュンにベラベラと語る。語られる空疎な未来と何もない彼らの未来。どっちがマシなのか・・・。病気で白くなる手をジュンは彼女に「キモイ」と言われる。母親に目をつぶされ、片目の眼帯の息子(柄本佑)や知的障害者たちも登場するが、彼らよりもケンタやジュンには、居場所がない。網走に向かうも、どこにも行くあてがないからだ。

再びフェリーで偶然出会ったカヨちゃんと3人の旅がまた始まる。カヨちゃんをゴミ屑のように捨てたのに、何事もなかったかのように。カヨちゃんは、捨てられても捨てられてもジュンについて行く。「そばにいて欲しい」と。ジュンの病気の白い手も握ってくれる。

寂しくて孤独で、バラバラな3人。「オレとお前は違う。なんで俺について来るんだ?」とケンタはジュンに言うが、それでもジュンはケンタのそばを離れない。世界でたった一人の孤独を味わいながら、それぞれは誰かと寄り添いたくて、旅を続ける。

網走に着いて、ケンタは兄に会うが、兄に会っても別の世界などありはしなかった。光など射し込まない。そんな虚無感が最後まで支配している。経済的貧困と過酷な労働、知的貧しさや思いやりの欠如と自己本位な暴力、これが現代の若者たちが辿り着いた場所なのか。彼らや彼女が<バカであること>を馬鹿にして切り捨てることは簡単だ。救われない映画だが、彼らの虚無感が妙に心に響いてくる。

ラストのエンディングテーマ、岡林信康の名曲「私たちが望むものは」が、情感たっぷりの女性ボーカルで意表をついて流れてくるのが、せつなく染みる。

「私たちが望むものは」阿部芙蓉美

それから、いじわるな先輩、暴力の権化の新井浩文がいい。

製作年: 2009年
製作国: 日本
日本公開: 2010年6月12日
監督・脚本: 大森立嗣
キャスト:松田翔太、高良健吾、安藤サクラ、柄本佑、多部未華子、新井浩文、美保純、小林薫、柄本明

☆☆☆☆4
(ケ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 青春

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非公開コメント

お久しぶりです(^-^)
私も観させて頂きました。
お腹にグッとくる映画でした。
ほんと、新井浩文は、ナイスでした!

No title

*クマさん
お久しぶりです。
コメントありがとう。
ほんと、お腹にグッとくる映画でしたね。
楽しさを求めて観ると、ちょっとツライほどの。
とても志のある映画でした。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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