「池上彰の宗教がわかれば世界が見える」(文春新書)

日本人には馴染みがうすい宗教を池上彰氏がわかりやすく解説しつつ、それぞれの宗教の専門家に素朴な疑問をぶつけるという本。大雑把に世界に浸透している宗教を理解するヒントになる本だ。

たとえば、アメリカが宗教国家であるという現実。大統領選挙では、キリスト教原理主義者や敬虔なキリスト教信者にとって「同性婚と妊娠中絶への態度」が大きく選択を左右するのだという。神様は「産めよ、増やせよ」と命じられたから、妊娠中絶・同性婚は反対というキリスト教原理主義的考え方は、共和党の保守層のかなりの数を占めるのだそうだ。オバマはイスラム教徒だという嘘のネガティブキャンペーンがはられたように、キリスト教徒ではない大統領は絶対にありえないのがアメリカ国家だ。無宗教といわれる日本とは大きく違う。

そもそも「無宗教」という考え方が、日本と欧米では違うのだ。欧米で「無宗教」といえば、「アンチ・キリスト」であり、イスラム圏では「反宗教」になる。ところが日本人の「無宗教」は、養老孟司氏に言わせると、仏教の「無」であり、「空」である。日本人の体には宗教は沁みこんでいて、意識しないだけだと言うのだ。

宗教は「よく死ぬ」ための予習だといわれる。宗教を通して、いろんな世界が見えてくるのが面白い。
以下、メモです。

*「南無阿弥陀仏」とはどんな意味ですか?
池上彰×釈徹宗

仏教は、喜びも悲しみも苦しみも全てを捨象してしまった状態を理想
とする。解脱すると、二度と生を受けることはない。この世に生まれ
ないことを目指す仏教は優しくない。もっと恐ろしい体系。

輪廻の中で生まれ変わってくることは苦しみである。解脱して、輪廻
の輪から外れて出て行く=涅槃に入る。

仏教は「生きるということは苦である」という自覚から始まる。
苦とは、「思い通りにはならないこと」。思いどおりに現実を
コントロールすることはできない。

「思い(執着)」を調える。身体を調え、思いを整え、言葉を整え、生活
を調えるトレーニングを実践することによって、執着を小さくすれば、
苦悩も小さくなる。究極的には、執着をなくしてしまえば、苦悩も
なくなってしまう地平を目指します。

大乗仏教の理想は「とらわれないこと」です。社会や他者と関わるん
だけど、とらわれない。拘泥しない。



*キリスト教がわかる!「最後の審判」は来るのですか?
池上彰×山形孝夫(宮城学院女子大学名誉教授)

仏教ならば「空」とか「無」と言い、この世は露の世であるとか、諸行
無常であるとわかればそれでよい。死ぬこともその一つ。たいした
問題じゃない。いわば徹底的な死の相対化ですね。
しかし、キリスト教は、死を相対化する方向には行きません。
人間はみな死ぬけれども、その苦しみの代価を、キリストが十字架
で死をとおして支払ってくださっている。イエス・キリストがすでに
死の不安と苦しみを十字架の死で贖ってくださっている。
「キリストを信じるものは、キリストとともに死に、そしてキリスト
とともに生きるものとなる」(パウロの手紙)と考える。(P184)



*日本の神様とはなんですか?
池上彰×安蘇谷正彦(國學院大學前学長)

神道は「お祭り」「神社」「神道古典」「神道思想の四つが柱。
稲作農耕の神様に五穀豊穣のお祈りをし、感謝するところから
始まっている。「神社」神様が住んでいる場所。
神様は祖先の霊。自然。優れた働きがあって、恐ろしいもの
(本居宣長)。一神教と神とは全く違う神。
神道には創造神がいない。
神道は、五穀豊穣や共同体の安寧を祈ることが第一の役割。
共同体の安寧がない限り、個人の安寧(商売繁盛、家内安全)はない。
個人の救済を目的とするキリスト教や仏教とは違う。



*「コーラン」で中東情勢がみえますか?
池上彰×飯塚正人(東京外語大教授)

イスラム教徒に言わせると、モーセとイエスがもらったメッセージは、
それ自体は正しいものだったけれども、それをユダヤ教徒、キリスト
教徒が、ちゃんと保存しないで捻じ曲げてしまった。キリスト教徒が
単なる人間であるイエスを神の子である神にしてしまった。
ムハンマドは預言者なので、イスラム教は彼を尊敬しても、崇拝する
対象とは考えない。

「コーラン」という最終的に正しいものをムハンマドに伝えた、それを
そのまま保存しろと言った。イスラムでは、カトリックのように
「聖職者が神と人間を仲介する」という考え方はしない。
神と人間は一対一で向き合う。



*「いい死に方」ってなんですか?
池上彰×養老孟司

「最後の審判」。そのとき墓から蘇ってくる「私」って誰なんだろう。
生きている時の行いが善だったか悪だったか決められる、その人の
一生を通した総体としての「自分」みたいなものが前提。
それが一神教の文化。

仏教は「無我」というように、「私なんて無い」という立場。
人間は日々変化していき、今ある姿はかりそめのものに
過ぎない。さらにいえば「生きている」ということだって
かりそめでしょう。

「自分探し」も自分があることが前提。個性を伸ばすのが
最大の価値になって,あんたは他人と違っていて、
その生まれつき違っていることこそが存在意義だという価値観。
世界の八割に人たちが一神教を信じているから。

日本社会そのものが一神教的なリつつある。

一神教は都市の宗教です。自然から切り離され、人間しか
いない人工世界ですから、死生観だって人間中心主義になる。
日本は世界から見れば「田舎」に属していて、一神教が普及
しなかった。

西洋の場合、宗教と科学は対立というより、表裏一体。
デカルトが典型。人間についても心身二元論になって、
心の方は宗教の領域、身体のほうは科学の領域と
切り分けるようになった。
ただ、私に言わせれば、同じ穴のムジナです。

神様が世界を作って、世界が終わる時「最後の審判」がある、
という話と、アメーバーから進化していって人間まで至った、
という話は、論理構成がそっくり。
どちらも始まりがあって、一直線に進んでいく。

「唯一の客観的な現実」が存在するという信仰。「客観報道」なんて、
完全な宗教です。
唯一の客観的な現実というのは、神様がいない限り成り立ちません
から。この世のあらゆる出来事を知っているのは、全知全能の
神様だけでしょう。
にもかかわらずメディアに流れる情報が唯一の現実だ、と
思い込んでいる人が多い。これはかなり危険な徴候です。

「環境を守ることが絶対の正義だ」とか言うのも、一種の
原理主義。既存のメディアの情報が嘘で、ネットの情報は真実、
という二分法なら同じ穴のムジナ。

検索しないものは存在しないかのように、言語に無いものは
存在しないという考え。聖書の「始めに言葉ありき」の世界。
それは危ない世界だと思う。

一神教的な「一生涯を通じて変わらない私」があって、その行いを
裁く「最後の審判」があるという考え方は、われわれ日本人には
ちょっと馴染まないんじゃないでしょうか。

死を考える、ということは結局どう生きるか、ということに
つながります。死に方と生き方は同じことなんですよ。
科学は再現可能な現象だけを対象にしますが、人生は日々に
起きる出来事は全て二度とはおきない。

われわれ人間は日々変化している。年をとれば髪が白くなり、
顔には皺が出来る。その先に、誰にも死が来る。それが自然の
理と考えるだけで、だいぶ楽になるんじゃないでしょうか。



特に養老孟司の考え方は、興味深く共感する部分が多かった。
確固たる「私」があるという一神教的な考え方が、日本に蔓延しだしていること。そして、純粋に客観的な現実が存在するという誤謬。客観報道なんてありえないという考え。日々変化している我々は、致死率100%という現実を受け入れ、死を考えることは同時に生を考えることだ。そこからしか何も始まらない。

(い)
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