『法然親鸞一遍』 釈 徹宗 (新潮新書)

日本の仏教の革命的変化を「法然⇒親鸞⇒一遍」の思想の流れで解説した本。「浄土宗」「浄土真宗」「時宗」という伝統仏教教団の三祖であり、浄土仏教の一連の動きをそれぞれ比較しながら、その特徴を紹介している。そこには仏教の3人それぞれの革新性が示されている。

「悟りの宗教」であった仏教、出家者が修行をして悟りを開くための一部の人たちのための宗教から、念仏さえ称えれば浄土で往生できるという一般庶民の「救い型宗教」へと解体、再構築したのが法然だった。

そもそも仏教の基本構造は、「戒―定―慧」にあるという。

われわれは通常「惑―業―苦」の連鎖で暮らしています。
執着である「惑」、その執着によって生じる行為の「業」、そして業によって「苦」が発生します。
それを「仏教の教えを守って暮らす(戒)」、「身心を調える(定)」、「自分の都合がなくなる(慧)」の
三学のプロセスへと転換するのが仏教という宗教です。


それを法然は、

「私は三学など修することはできない」、「自らの力で悟りを開くことができない者も、口に南無阿弥陀仏と称え、阿弥陀仏にすべておまかせすれば、阿弥陀仏の『すべての存在を救う』という誓願の力で必ず浄土に往生して仏と成れる」と言ったのです。



「同一性」や「均質化」を特徴とする日本仏教に中で、体系を二分して一つを選択するという「あれかこれか」の二項対立構造を打ち立てたのが法然であったという。これは、これまでの仏教の根底を変えるほどの変化であり、やや一神教的な思想であったと釈徹宗氏は解説する。

その法然の革新性をさらにとことん実存的な深みまで突きつめたのが親鸞だ。親鸞は「おのれの念仏は本物であるのか」と問い続け、仏に背き続けたのだ。

親鸞は逃げるモノを後ろから抱きかかえるのが阿弥陀仏の「摂」だと言うのです。
法然が説いたように、ただひたすら念仏をしてもなかなかすっきりと救われず、さらには救いに背き続ける自己を見出し、どこまでも仏とは異質であることを意識し告白し続ける。

「悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎(だかつ)のごとくなり 修善も雑毒なるゆえに虚仮の行とぞなづけたる」(「和讃」)
(悪の本性をとめることはできない。私の心は蛇蝎のようです。善を行っても、それはしょせん自分の都合という毒がまじった善ですので、「ニセモノの行い」とよぶしかありません)


「自らの悪性を自覚している者」を親鸞は“悪人”と呼んだ。煩悩があるからこそ仏教の救いがある。煩悩と悟りは、どこまでも背反するにもかかわらず、相互依存的に成り立つ。絶対異質だから同一、異のまま同。これが親鸞の本質だという。煩悩があることを否定せず、煩悩があるからこそ救いがあるという背反性。

そして、親鸞は自らの念じる主体性を疑い、放棄する。自力への疑い。他力本願。「自分はどこまで行ってもニセモノである。私の側に真実はない」「念仏も信心も救いも、すべては仏の働きによって成就する」。つまり私への疑いが親鸞にはある。疑えば疑うほど、称名の実践とともに自己が問われていく構造なのだ。親鸞思想の中枢は、「深い内省による自己否定」と「仏の智慧と慈悲による救い」との二面性を併せ持っている。

そして一遍は、そんな親鸞の二面性をすべて「捨てる」ことで一元化するのだ。

一遍は、すべてを捨てた境地で称名念仏すれば、もはや仏もなく我もなく、すべてが念仏となる、そう言います。
仏道を、たった一言、「捨ててこそ」と言いつくした一遍は、念仏も信心も捨てて、すべては南無阿弥陀仏と無境界化する仏道を提示しました。そして遊行しながら踊躍念仏する形態は、多くの芸能や半僧半俗の境界人を生み出した。


「踊る」「踏む」「叩く」「舞う」そして「その場を感じる」 、そういう芸能的要素を融合し、信じる人と信じない人との境界を無化する。「すべては名号に帰一する」ところが一遍の思想であり、「遊行」の形態をとった一遍は、その圧倒的な身体性でさまざまな垣根を軽々と越えていった。出家と在家、聖と俗、仏と私、念仏と禅、仏教と非仏教、宗教と芸能など、領域の意識を捨てた一遍においては相反することなく融合しているのだ。

<生涯を出家者として送った法然>、<どこまでも世俗の中で生き切ろうとし、自らを非僧非俗と呼んだ親鸞>、<遊行という形態をとった一遍>、3人それぞれ、時代や既成仏教と格闘しながら、念ずる自己を問い続け、新たな地平を切り拓いていった仏教の革命者だったのだ。

僕はやっぱり、自らの悪や煩悩を問い続けた親鸞の問いに興味を覚える。そしてすべての境界を無化しようとした一遍のラジカル性に驚かされた。


(ほ)
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