「恋する原発」高橋源一郎

ずっと気になっていた高橋源一郎の問題作「恋する原発」である。実は高橋源一郎の論壇時評の文章などは読んでいるけれど、小説はずーっと読んでいなかった。デビュー作「さよなら、ギャングたち」以来である。だから、高橋源一郎という作家がどういう経過を辿って今に至ったのか、まったく知らない。だから語る資格もないのだけれど、デビュー作(詳細はもう忘れてしまった)のイメージから共通するのは「軽妙さ」である。

この「恋する原発」という刺激的なタイトル、発刊する際もチェックが入って延期になったりしたらしい。そして、その内容たるや・・・何を語ればいいのか全くわからない。下ネタの連発、電車の中で読んでいるのも憚られるほどの性的表現の乱発。義援金を寄付するために制作されるチャリティーAV(アダルトビデオ)と監督の妄想のようなメチャクチャな物語。ダッチワイフの人形や何でも叶えられる宇宙人などが登場し、様々な有名人のソックリさん?たちが福島の原発前に集められる。そして最後は歌が流れ出し、ミュージカルが始まる不自然さの極地。そんななかで途中に、真面目な「震災文学論」が挿入されている。

ここでは現実の深刻さや重さと対極の「軽さ」が意識的に描かれている。震災と原発事故という重い現実を前に、我々は言葉を失ってしまった。何をどう語ればいいのか見つけられないほどの重さ。あるいは封印され、隠された言葉。その中でも作家たちは、自らの言葉を紡いだ。「震災原発論」のなかで取り上げられている文章は、川上弘美の『神様 2011』、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』完全版、石牟礼道子の『苦海浄土』だ。いずれもその批評は、興味深い見事な指摘だし、原発事故を受けてのそれぞれの真摯な表現に対して敬意を払ったものだ。彼は、私たちが「死」や「老い」や「病」や「障害」や「貧困」を「汚れ」と見なすようになった現実を指摘している。「汚れ」は浄化されなければならない。私たちの視線から遠ざけなければならない。だからこそ、いま我々は「死」を必要としているのだ。

その「汚れ」の一つとして隠された「性」もまたあるのかもしれない。「震災原発論」の真面目さと並置される、どうでもいいような下ネタのフィクション。性を露悪的にナンセンスに描くことで、語られぬ言葉や、隠された「汚れ」を表に出そうとしているのかもしれない。

宇宙人のジョージは最後に言う。「こんな馬鹿馬鹿しい作品を作っても現実の馬鹿馬鹿しさには到底かなわない。こういうのを負け戦っていうんじゃないか?」と。この「負け戦」をあえて演じて見せたのがこの小説なのか。隠された「死」を取り戻すために。

(こ)
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