「神様 2011」川上弘美

僕は川上弘美の『神様』が大好きだ。「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである。」で始まる寓話のような短い物語だ。1993年に書かれた川上弘美のデビュー作であり、この短編集には、ほかにも「梨畑の三匹の白い小動物」や「河童のカップル」、「壷の中の若い女」など不思議なものたちが登場する。川上弘美は、現実と幻想との「あいだ」の世界を描き続けている作家だ。

『神様』は、とても紳士的なくまと女の子が川原でデートするだけの話なのだけれど、この作品を震災後に川上弘美が書き直した。従来の『神様』を震災後の設定にして『神様2011』としたのだ。川上弘美はこの旧作『神様』と新作『神様2011』の二作品を並置させた。並置させたことで、その違いが際立つようになっている。

高橋源一郎が『恋する原発』のなかの「震災文学論」で指摘しているように、『神様2011』では、防護服の男たちが登場し、放射能が蔓延し、子供たちが消えている。男たちの背後で、「幽霊のような子供たちが、わたしたちに話しかけようとしている」と高橋源一郎氏は感じたという。「この小説では、まだ生まれていない子供たちが「追悼」されている」という高橋氏の指摘は、「なるほどなぁ」と思えるものだ。書き加えられた防護服の男たちよりも、消えたことで、子供たちの存在感が増しているのだ。

そもそも、なぜ「くま」は「神様」なのか。「熊」が登場する小説で僕が思い出すのは、ジョン・アーヴィングの『ホテル・ニューハンプシャー』だ。あれはまぁ「熊の着ぐるみ」だけど。登場人物がストレートに表現できないことを、「熊」に思いを仮託させ、共通の幻想のようなものを「熊の着ぐるみ」を通して描いている。痛みやコンプレックスや不幸や悲しみをどの登場人物も抱え、少しずつ、そんな過去にケリをつけ、熊の着ぐるみを脱ぎ捨てるように、新しい一歩を踏み出していく。

「しかし、わしらには、熊が必要なんだ。誰でもそうだ」
「夢を見続け、そしてぼくたちの夢はそれをありありと想像できるのと同じくらい鮮やかに目の前から消え去る。
 好むと好まざるとによらず、それが現実に起こることである。そしてそれが起こることであるから、ぼくたちには、利口な熊が必要なのだ。」 (「ホテル・ニューハンプシャー」新潮文庫・中野圭二訳)


星野道夫は、東京の満員電車に揺られながら、北海道の森に思いを馳せ、いま、同じこのとき、森の中を歩いている熊がいることを想像するだけで「ワクワクした」とエッセイで書いていた。そうなのだ。熊は「原始の野生」の象徴なのだ。それは都会で暮らす者にとっては「失われた野性」であるのかもしれない。アイヌの人たちにとって熊は神だ。アイヌの熊送りの儀式「イオマンテ」は、神々の国からつかわされた熊神を歓待して、ふたたび神の国におくる神送りの儀式だ。

そんな「原始の野性」の象徴である「熊」を、川上弘美は「くま」という近所に引っ越してきた紳士的なキャラクターとして「神様」を造型した。そして震災と原発事故は、われわれにもう一度「神様」を考えるキッカケを作った。自然の脅威、人間がコントロールできないもの、制御できない放射能の力。私たちが忘れてしまっていた「神様」はいまどうしているのだろうか。

「熊の神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように。」と、くまからの手紙で書かれていたように、我々は「くまの神様」が想像できないけれども、願うしかない。もしかしたら「ウランの神様」や「原発の神様」がいるかもしれないけれど、近くにいる神様のことをもう一度思い出しながら、少し心に感謝の気持ちを取り戻して、日々生きていくしかないのだ。

(か)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
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    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
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    6、パリ20区、僕たちのクラス
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    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
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