「ヒミズ」園子温

ヒミズ

自殺者数が13年連続3万人を超えている日本。そんな閉塞した日本で大震災と原発事故が起きた。これまで家族の解体と崩壊、そして承認されない孤独、病的なまでに歪んだ暴力や性をあざといほど刺激的に描いてきた園子温監督。そんな現代の空気に敏感な園子温監督が、大震災という圧倒的な死が横たわる暴力で破壊されつくした町を前にして、家族の解体と内へと向かう暴力=自殺を反転させ、若い二人のみずみずしい身体を通して「希望」を描いてみせた。その反応の素早さは、映画を現実に拮抗させようとする彼の意志を感じる。

とにかく染谷将太、二階堂ふみの二人がいい。渡辺哲や吹越満、さらに「冷たい熱帯魚」のでんでん、光石研、窪塚洋介などが脇を固めつつ、若い二人の身体的躍動感がこの映画を支えている。相米慎二監督の映画の少年少女たちのように。

「紀子の食卓」では虚飾にまみれた家族ごっこの姿を通して、家族自体が疑似的な形でしか成立しない歪みを衝撃的に描いてみせた。それは現代版の「家族ゲーム」のようでもあった。そして「愛のむきだし」では、宗教とエロスを道具立てにしながら、倒錯的で変態的な家族の愛の喪失の物語を戯画化しながら大げさに描いて話題になった。さらに「冷たい熱帯魚」では、その家族崩壊の果ての暴力性を突出させ、歪んだ性といびつな暴力はとことん過激になっていった。未見ながら「恋の罪」は性的事件からヒントを得た物語で、過激な性描写が話題となった。

そしてこの「ヒミズ」。この映画はある意味、「大震災」が園子温に変化をもたらしたと言えるだろう。これまでのあざとい過剰な暴力や性の歪みからの崩壊、死へと向かうベクトルを、「希望」へと反転させたのだ。震災が起きていなかったら、全く違った映画になっていただろうし、ラストシーンも違っていただろう。園子温監督自らがインタビューで「希望に負けた」という表現を使っているようだが、「たった一つの花=個性の大切さ」や「夢を見ろ!」や「がんばれ!」やらの震災直後に何度も励まされた言葉を、あえて逆説的に使っている。そんな空疎な言葉に辟易しながらも、そんな言葉で自らを励ますしかない過酷な現実。

染谷将太は、ゴダールの「気狂いピエロ」のジャン=ポール・ベルモンドさながら顔に絵の具を塗りたくり、殺す奴を求め、死に場所を探して町を彷徨う。「知らないのは自分のことだけ」というヴィヨンの詩の言葉は、承認されない不幸と分断された孤独、自分探しの物語の混乱のなか、いつもどおり暴力へと向かう園子温的世界を体現している。泥にまみれたモグラのように生きること。まるで、かつての「青春の殺人者」(長谷川和彦監督)を思い出す親殺しのテーマ。そんな彼をこの世に必死につなぎとめようとする二階堂ふみの全身の叫びがなんとも切ない。これは「震災」が園子温に描かせた叫びかもしれない。ラストの空疎な言葉でのやけくその呼びかけと走りの感動は、この二人の役者がもたらした若い身体性への希望だ。「ガンバレ」という言葉が感動的なのではない。その空疎な言葉の無意味さとそれでも前に進む身体的な躍動感が「希望」なのだ。

あざといまでのこれまでの刺激的な物語が、フィクションを凌駕する過激な現実を前にして、抑えられたものになっているのがいい。無差別殺人や親の病的な振る舞いなど定型の過剰な暴力はいつものように劇画的に描かれている。だが、それよりも若き二人の存在感が輝いている。園子温の演出の饒舌さよりも、若き二人の身体性が上回っている映画なのだ。そんな彼らを支えるコミューン的浮浪者たちとともに、人と人とのつながりを感じつつ、二人の未来へと希望が託される。

「紀子の食卓」レビュー
「愛のむきだし」レビュー
「冷たい熱帯魚」レビュー

製作年/国 2011年/日本
配給 ギャガ
監督:園子温
原作:古谷実
脚本:園子温
撮影:谷川創平
美術:松塚隆
音楽:原田智英
キャスト:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子、西島隆弘、鈴木杏

☆☆☆☆4
(ヒ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

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絵の具

そういえば、「気狂いピエロ」みたいでしたね。
染谷くんはつくづく映画的な存在なんですよね。

Re: No title

> *かえるさん
> コメントありがとう。
> 園子温監督は「気狂いピエロ」意識していたと思いますよ。染谷君は、しばらく目が離せませんね。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
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    9、レスラー
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<日本映画>
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    2、空気人形
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    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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