「ナッシュビル」ロバート・アルトマン

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かつて学生時代にこの映画を観た時、あまりピンとこなかったような気がする。縦軸のストーリーのある普通の映画を見慣れた者には、物語の中へと入っていきにくいからだ。話がどんどん横滑りしていく。歌が途中で中断され、別の歌の場面になったりする。会話もまた然り。一つの会話が中断され、別の会話へと接続されていくのだ。ただ、この映画は「アメリカそのもの」のような映画だったという印象だけは強く残っている。

それで久々に映画館で観たロバート・アルトマンのこの映画、やっぱり凄い。登場人物は24人もいるのだ。ロバート・アルトマンといえば群像劇の名手である。なかでも、この映画のスケールは大きい。音楽フェスティバルまでの5日間の町全体の喧騒。ここには、ベトナム戦争後の当時のアメリカがある。個人的には、「ショート・カッツ」(1993年)あたりがロバート・アルトマンの群像劇映画では一番好きかもしれないけれど、この映画も彼の原点とも言える記念碑的作品だ。

保守的な南部の町、カントリー&ウエスタンの聖地ナッシュビルに、さまざまな人たちが集まってくる。場面は音楽スタジオの収録場面で始まり、大統領選挙の街宣車が街を騒がせ、ナッシュビル空港には各地からカントリー・ミュージシャンたちが続々と集まってくる。ブラスバンド演奏やバトントワラーたちにテレビ中継。そして、人気歌手が突然失神し、騒ぎが起こり、道路が渋滞して車の玉突き事故で人々が立ち往生になる。なんとも象徴的な事故だ。浮かれた賑わいと混乱と停滞。様々な登場人物が行き交い、次々と問題が起こり、人物たちが点描される。そこにはパズルのような人間模様があるだけで、それぞれの物語は深化していかない。大統領選挙の街宣車が全編を通じてわめき続ける。音楽の人気を政治に利用しようとする人たち、音楽への様々な思いがあるミュージシャンたち、ショービジネスの世界、男と女の性と欲、かつての人気ロックバンドの3人の微妙な関係、田舎から出てきた青年の母親への屈折した思いやミーハーなイカレ娘と妻を看病する叔父さん、BBCのレポーターなどなど、とにかく要素はさまざまだ。

イケメンで女好きのフォーク歌手キース・キャラダインは、劇中曲「アイム・イージー」でアカデミー主題歌賞を受賞し、曲も話題になった。またラストのイベントでの事件、混乱の中で最後に歌われる"It don't worry me"(そんなことはへっちゃら)も印象的だ。

カントリーの大スター(ヘンリー・ギブソン)のスタジオレコーディングの完璧主義者ぶりや、人気歌手バーバラ(ロニー・ブレイクリー)の神経衰弱的な病、そんな彼女を追い掛け回すベトナム帰りのGI(スコット・グレン)や田舎から出て来た鬱屈した青年など病的な人たちがいろいろと登場する。歌が下手糞なのにもかかわらず、シンガーとして夢を見るウェイトレス(グウェン・ウェルズ)は選挙パーティで野次が飛び交い、ストリップまでやらされる。病的な歪みがいろいろ噴出してくるあたりが面白い。

大きなアメリカの星条旗が最後のイベントに飾られるように、これはアメリカそのものへの文明批評であり、距離を持ちながら描いた人間模様だ。ロバート・アルトマンは、いつもそういう冷めた視点でアメリカを描いてきた。カントリーソングが大きな役割を果たしている映画だが、あくまでもそこで描かれるのは人間臭いほどの人間の断面なのだ。ちょっとしたエピソードの連なりから、大きなアメリカそのものの病を描こうとしたこの映画は、映画史にも残る特異な映画とも言える。



製作国 アメリカ 1975年
原題: Nashvill
監督: ロバート・アルトマン
脚本: ジョーン・テュークスベリー
撮影: ポール・ローマン
音楽: リチャード・バスキン、キース・キャラダイン
出演: ヘンリー・ギブソン、リリー・トムリン、ロニー・ブレイクリー、グウェン・ウェルズ、シェリー・デュヴァル、キーナン・ウィン、バーバラ・ハリス、スコット・グレン、ロバート・ドクィ、エリオット・グールド、ティモシー・ブラウン、デヴィッド・ヘイワード、バート・レムゼン、ドナ・デントン、ジュリー・クリスティ、カレン・ブラック、アレン・ガーフィールド、バーバラ・バクスレー、ネッド・ビーティ、マイケル・マーフィ、ジェフ・ゴールドブラム、クリスティナ・レインズ、ジェラルディン・チャップリン、キース・キャラダイン

☆☆☆☆☆5
(ナ)
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