「家族の庭」マイク・リー

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この映画は、決して家族の心温まる映画などではない。この映画の宣伝コピーに「ここに集まると、喜びは倍に悲しみは半分になる」、「家族と友情、愛とぬくもり、喜びと悲しみ。そして時は巡る…」などと日本公開では宣伝されているが、みなさん、騙されてはいけません!この映画はとても残酷でシニカルな映画です。イングリッシュガーデンに集う人々の愛と家族と友情のとても心温まる映画などでは断じてありません!

人生の秋を迎えた初老の夫婦、トム(ジム・ブロードベント)とジェリー(ルース・シーン)。この老夫婦はもう漫画のような理想的な夫婦である。夫婦仲も良く、それぞれが仕事を持ち(地質学者と心理カウンセラー)、息子は親思いの弁護士。エリート夫婦であり家族である。ロンドンに暮らし、しかも郊外の市民農園で野菜を作り、美味しい手料理とワインで友達をもてなす。なんとも幸せに見える夫婦である。

そしてこの人のいい優しい老夫婦のところに集まってくる友達たちが、実に不幸で孤独なのだ。この映画の主人公は、この老夫婦ではなく、孤独で寂しい女、メアリー(レスリー・マンヴィル)である。彼女が主演女優賞も取っているのだから、まさに主演なのだ。ラストは、彼女の孤独な表情をカメラが捉えて終わるのだから、この映画は彼女の孤独を浮き彫りにする映画であり、幸福な老夫婦はそんな彼女の孤独を描くために出しているようなものである。孤独な友人たちは、ほかにも続々登場する。トムの友、ケンはメアリーに気があるが、冷たくされる。タバコを吸い、少し肥満気味である。さらに、トムの兄のロニ―もまた、口下手で、妻に先立たれ、一人息子との仲が悪く、葬式で息子に悪態をつかれる。

映画は、これら不幸で孤独な人たちと、幸せで円満な家族との残酷な対比が描かれる。孝行息子のオリヴァー・モルトマンが彼女を連れて、ラストは家族仲良く夕食を囲みながら歓談する。トムはオーストラリアから世界各地を回った旅の話をする。エリートであり、金もあり、知的好奇心もある裕福な生活。そんな話の流れで、メアリーにも「ギリシャにいたんだよね」と話をふるが、メアリーはウエイトレスで働いていただけだ。その差がハッキリと示される。

ジェリーは、最後に突然やてきたメアリーに対して「あなたには失望したわ」と言い放ち、自分のことは自分でちゃんとやりなさいと自己責任論を展開し、自分の家族とメアリーの間にハッキリと境界を引く。息子の恋人ケイトは、明らかに自分たちの家族の側だ。全く恐ろしい冷たさだ。じゃあ、これまでなんでメアリーを家に招き入れて、仲良くしていたのか。この老夫婦は、メアリーを哀れでかわいそうな女と思いながらも、自分たちの世界とは一線を画し、差別的に扱ってきたのではないか。それは、太ったケンに対しても同じであり、「昔はいい男だったのにねぇ」と憐れみの感想すら漏らす。

一見、優しくて感じのいい老夫婦だが、その優しさはとても残酷であり、シニカルだ。自分たちのことは自分たちで解決しなさい、太っているのも、酒びたりなのも、料理を楽しまないのも、タバコをやめられないのも、人に愛されないのも、それはすべて自分たちのせいであり、自業自得なのである。トムとジェリーは、そんな彼女、彼らを拒まず家に招きながらも、しっかりと距離を置いているのだ。

メアリーが赤ちゃんもそばにいるガーデンパーティーの席で、非常識にもタバコを吸おうとして、みんな一斉に逃げるように席の立つシーンがあるが、とても滑稽な感じで描かれている。彼ら老夫婦たちには、タバコを吸うような人は、健康の自己管理も出来ず、知的レベルも低く、自分たちとは違う世界の人たちなのだ。それなのに、自宅のパーティーに招いているのだから、イギリス人はよくわからない。笑顔で迎えながらも、ハッキリと境界を持っているのだ。その残酷さがなんとも痛烈なのだ。

人の気持ちも考えず自分勝手で、人に愛されないメアリーの哀れさと孤独を、富裕層のやさしい老夫婦家族と対比させることで、浮き上がらせる皮肉な映画である。人生、甘くないのだ。愛とぬくもりで簡単には癒されないということを心して観るべき映画なのだ。ただこの孤独な人々も、いつか愛とぬくもりに包まれる<ANOTHER YEAR>があるのかどうか…。それを感じるのは観客次第である。丹念にリアルなイギリス人家庭の日常を淡々と描いた作品で興味深い。そして、心に潜む差別感覚を描いているという点で、とても辛辣な映画である。



英題:ANOTHER YEAR
製作年:2010年
製作国:イギリス
監督・脚本: マイク・リー
撮影: ディック・ポープ
音楽: ゲイリー・ヤーション
キャスト:ジム・ブロードベント、レスリー・マンヴィル、ルース・シーン、ピーター・ワイト、オリヴァー・モルトマン、デヴィッド・ブラッドリー、カリーナ・フェルナンデス、マーティン・サヴェッジ、ミシェル・オースティン、フィリップ・デイヴィス、スチュワート・マッカリー、イメルダ・スタウントン

☆☆☆3
(カ)
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ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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