「北北西に進路を取れ」アルフレッド・ヒッチコック

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ヒッチコックのあまりにも有名な映画を久しぶりに再見。ヒッチコックお得意の巻き込まれサスペンスであり、ヒッチコックらしいが仕掛けがいかんなく発揮されている。

まずは、バスに乗りそびれる乗客としてヒッチコック自ら登場しながら、この映画が<乗り物>にまつわる映画であることが示される。最初はタクシーに乗りそびれる客を見せながら、映画の登場人物たちが割り込むようにして車に乗り込む。そして広告代理店のロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グランド)は、ジョージ・キャプランという存在しない男に間違われて、車で屋敷に連れ去られる。逃げようとしてもロックして開かない車。今度は、酒を飲まされた挙句に車を運転させられ、自動車事故に見せかけて殺されそうになる。車は殺人の凶器となりかける。また、国連総会に出席しているタウンゼントに会うために、乗ろうとしている乗客を押しのけてタクシーに乗り込み、尾行をまくシーンでも車は使われる。

車のサスペンスに続いて登場するのが列車のサスペンスだ。駅の改札からホームへ、警察の追手から逃げつつ列車の中で隠れ続けるサスペンスが始まる。ここでヒッチコックは、いつも大好きな謎のブロンド美女を登場させる。この映画のブロンド美女・イヴ・ケンドール(エバ・マリー・セイント)もなかなか魅力的だ。映画は彼女の登場で俄然に面白くなる。食堂車でのブロンド美女との意味深な会話があり、謎の美女は敵か味方か、映画はラブサスペンスの様相を示す。

さらに登場するのが飛行機に襲われる有名なシーンだ。飛行機の登場がやや唐突な感じもあるが、この映画はきっと<乗り物サスペンス>にこだわったのだろう。だだっ広い荒野で飛行機に襲われ、おまけに止めようとしたトラックにまで引き殺されそうになる。連邦警察の黒幕・教授という男が現れ、ジョージ・キャプランという男は架空の人物であることをロジャー・ソーンヒルに告げる場面でも飛行機に乗る場面が出てくる。美女イヴ・ケンドールの気持ちが本物であったことを告げつつ、彼をラシュモア山へと連れて行く<飛行機>に乗せるのだ。そして、ラストのイヴ・ケンドールを連れてヴァンダムが逃げようとする場面でも再び飛行機は登場する。何度か<乗り物>に乗って、危険な目にあわされてきたロジャーは、最後になってやっと、イヴ・ケンドールを<乗り物>である飛行機に乗せずに済んだというわけだ。ラストは二人仲良く列車に乗ってハッピーエンド。

そしてヒッチコックと言えば、高度のサスペンスだ。病院の窓から逃げ、壁を伝って隣の部屋へ。さらにヴァンダムの住宅の壁をよじ昇り、ロジャーは秘密の会話に聞き耳を立てる。ラストの見せ場は、有名なラシュモア山の絶壁での格闘だ。山の岩肌にはワシントン、リンカーン、ジェファーソン、ルーズベルトと、巨大な大統領の顔が彫ってあり、その顔の上を二人は逃げる。映像的な面白さを狙った有名な場面だ。自由の女神や高層ビルや断崖や教会の鐘の塔など、ヒッチコックはいつでも高みからの落下をサスペンスとして使う。高所恐怖症の設定の『めまい』が一番の傑作だと思うけれど。

<乗り物>に殺されそうになり続けるこの映画の活劇をより面白くさせているのは、やっぱり謎のブロンド美女の存在だ。マザコン男のロジャーを魅惑的に誘う悪女的場面と一瞬垣間見せる表情の変化や彼女の涙が効果的だ。拳銃の空砲トリックやメモした紙の筆圧からメモを読み取るシーンなど、サスペンスの教科書のような場面がいろいろとある。

ヒッチコックは、架空の人物ジョージ・キャプランを造形することで、ロジャーが間違えられ、教授とヴァンダム一味の騙し合いに巻き込まれる。存在しない人物こそが、この映画の物語の主人公であり、登場人物の誰もがその幻の男・キャプランを操り、殺そうとしたり、殺されそうになるのだ。犯人と間違われて、真犯人を追いかける『逃走迷路』ともよく似ているが、追いかけていた男が存在しない幻だったところがこの作品の面白いところだ。

サスペンスとは、存在しない幻影との戦いであることをヒッチコックはよく知っている。


原題:North By Northwest
公開: 1959年 M-G-Mスタジオ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:アーネスト・レーマン
撮影:ロバート・バークス
音楽:バーナード・ハーマン
出演:ケーリー・グランド、エバ・マリー・セイント、ジェームズ・メースン、レオ・G・キャロル、マーティン・ランドー

☆☆☆☆☆5
(ホ)  
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tag : サスペンス ☆☆☆☆☆5

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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