「永遠の僕たち」ガス・ヴァン・サント

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僕にとってアメリカの映画監督で新作を見逃すわけにいかないのが、ジム・ジャームッシュであり、クリント・イーストウッドであり、そしてこのガス・ヴァン・サントである。僕は彼の映画の透明感のある静けさにいつも惹かれてしまうのだ。

ガス・ヴァン・サントの映画の登場人物は、孤独で繊細で閉ざされていて、静かな死の気配が満ちていることが多い。「ドラッグストア・カウボーイ」「マイ・プライベート・アイダホ」「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」「エレファント」「ジェリー」「ラストデイズ」「パラノイドパーク」「ミルク」。どの作品も静かで繊細なのだ。

この映画はまさに全編「死」に満ちている。両親の死を受け入れられず、登校拒否で知らない他人の葬式ばかり参列している少年イーノック(ヘンリー・ホッパー)、癌に侵され余命3カ月と診断される少女アナベル(ミア・ワシコウスカ)、そしてすでに死んでしまっている特攻隊員の幽霊ヒロシ(加瀬亮)。そんな「死」が「生」の領域に溢れだしているような世界で、「生」の一瞬の輝きを見つけ、静かに「死」を受け入れるまでの物語。いわゆるよくある難病もののラブストーリーであり、使い古された古典的な物語でありながら、とても詩的で二人の存在が美しく感動的なのだ。これはガス・ヴァン・サントの演出力のなせる技なのか…驚きだ。透明感に満ちたささやかなすべき作品である。

まず二人の出会いのシーン、葬儀に参列して少女の後ろ姿を見る少年、振り向く何気ない少女の顔。映画で何度も使いつくされてきたこのシーンからなぜかときめく。まるで『小さな恋のメロディー』のマーク・レスターとトレイシー・ハイドのようだ。

両親の墓地の前でお互いのことを話し、木の下でスケッチをしていたアナベルが、朝生きている喜びを歌う鳥のことを語る。自らの病気のことを告げるサッカーグラウンドの二人のバックショット。「(死の)準備を手伝うよ」と思いを告げるイーノック。二人は「死」と寄り添っていく。初めてのデートでボーイッシュで中性的なアナベルが、女の子らしい服を着て病院の廊下を歩くシーンのなんとキュートなことか。そしてういういしいファーストキスの場面。ハロウィンの夜の森と懐中電灯の光、アナベルが死んだ時の場面を二人で予行演習のように演じてケンカするシーン、どれもこれも繊細で詩的センスに溢れている。そしてラストのノーイックが思い出す二人がデートした場所、静かに雪が降り積もる不在の風景がせつなく心に迫る。

死体のように道路に寝そべり、チョークで二人の姿をかたどる宣材などに使われている俯瞰のショットがある。死を演じながら、少しずつ死を受け入れていく二人。イーノックとヒロシが線路で語り、列車に石を投げつける遊びに興じる。線路や列車は、「生」そのものとしてイメージされる。二人がベンチで話す横でヒロシが水辺に佇む場面なども視覚的に生と死を意識している。まさに計算しつくされた映像設計であり、それがとにかく美しい。

先日『パレルモ・シューティング』でデニス・ホッパーの遺作となった死神姿を観たと思ったら、今度はその息子ヘンリー・ホッパーである。「死」つながりである。少しあどけなさが残る不安な少年の美しき顔。そして『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカも素晴らしい。兄弟のようでもある少年と少女の中性的な二人の魅力がとにかく画面に溢れている。

ゴーストのヒロシが優しく二人に寄り添っている。アメリカ映画ではしばしばゴーストは、退治したり(『ゴーストバスターズ』)オカルト的な恐怖の対象として描かれるが、この映画は東洋的とも思えるほど、死霊(ゴースト)は穏やかで優しく、「生」とともにある。

死が溢れているからこそ、生きることの輝きが切なく心に響く美しき映画だ。


原題:Restless
製作国:2010年アメリカ映画
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:ジェイソン・リュウ
撮影:ハリス・サビデス
美術:アン・ロス
衣装:ダニー・グリッカー
音楽:ダニー・エルフマン
キャスト:ヘンリー・ホッパー、ミア・ワシコウスカ、加瀬亮、シュイラー・フィスク、ジェーン・アダムス、ルシア・ストラス、チン・ハン

☆☆☆☆☆5
(エ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

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非公開コメント

すばらしい映画評でした。

はじめまして。
ガス・ヴァン・サントは僕も好きな映画作家でほとんど見ています。
でも、分かったようなつもりでいてこの映画評を見るまで分かっていなかったです。
この映画評以上のガス・ヴァン・サントを知りません。
今まで書いてきた僕のコメントが白々しく思えるほど素晴らしいです。

それでは、また。

No title

*ヌートリアEさん
お褒めの言葉、ありがとうございます。恐縮です。
ヌートリアEさんは、本当に丹念にいろんな映画を観てらっしゃいますね。

ヌートリアEさんが2011ベストワンにあげていらっしゃる「海炭市叙景」はとても心に響くいい映画でした。僕もとても好きになった映画でした。

またいつでも遊びにいらしてください。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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