「少女ムシェット」ロベール・ブレッソン

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なんと救いのない非情な映画なのでしょう。少女の受難物語。『バルダザールどこへ行く』には、まだ幸福な少女時代があって、小さなロバとの無垢なる戯れがあった。しかし、この少女ムシェットは最初から不幸なのだ。

貧しく、母が病気で、赤ちゃんの世話をしつつ、乱暴な父親と兄の家事もこなしている孤独で不幸な少女。学校でも一人であり笑顔はない。音楽の先生に叱られ、男の子たちに下半身を見せてからかわれ、こっそり友達に土を投げつけて発散するしかない心が歪んでしまった少女だ。映画の中で唯一、笑顔を見せる場面がある。遊園地で車をぶつけ合う遊具でムシェットは楽しそうに笑う。しかし、何度も車をぶつけられ、心惹かれた男の子に近づいていくも、父親に殴られ、引き離されるのだ。

冒頭、森での狩りのシーンが描かれる。密猟で罠を仕掛け、生け捕りにされる鳥。それを森の中で見つめる森番の目。ロベール・ブレッソンお得意の視線のドラマだ。少女ムシェットは、森で罠につかまる鳥のようだ。ラスト近くで、ウサギが猟銃で何度も狙われる狩りのシーンが描かれる。傷ついて瀕死のウサギを見つめる少女。それはまさに彼女自身だ。少女ムシェットは、哀れな殺されるウサギだ。

雨の森、水溜りに脱げた靴(靴は映画の後半でも出てくる)。そして酒場の女をめぐっての嫉妬の果ての男たちの喧嘩。森番と密猟者。ムシェットは密猟者の男に森で見つけられ、小屋で雨宿りさせてもらうが、少女の靴を探しに行った密猟者とともに森に銃声が鳴り響く。いつものようにブレッソンは何が起きたかを見せない。密猟者の男は、酔って喧嘩した森番を自分が殺したと思い込み、少女をアリバイ工作のために利用しようと思いつく。そして陵辱されてしまう少女。

この映画の凄いのはそのあとだ。家に帰ると、彼女は母親に話したいことがあるのに何も話せない。そして、翌朝、母親が亡くなる。母親の死を悲しんで、近所のおばさんが少女にコーヒーとパンをご馳走するのだが、少女は胸の傷を見咎められ、「ふしだらな!」と言われる場面。その冷たい目線。割れるコーヒーカップともらったポケットのパンを投げ捨てて、その場を後にする少女。なんという残酷なシーンだろう。

さらに、殺されたと思っていた森番が生きていることに少女は驚く。昨夜の男が密猟で警察に捕まったことを森番から聞かされる少女。一晩中、男と一緒だった事を聞かれた少女は、自らを密猟者の「愛人だ」と言うのだ。陵辱されて悲しみの涙を流しながらも、男を受け入れる少女。ここには『バルダザールどこへ行く』の少女と同じような女の変化がある。無垢なる少女から、何かを諦めて受け入れて「女」へと変わる瞬間。

そして死んだ母を悼むために渡される布。死は敬うものだと老婆に諭される少女。その死んだ母をくるむはずだった布を少女はまとって、ぐるぐると何度も坂を転げ落ちるラストの場面。もう言葉がない。こんなせつなく悲しいラストシーンがあるだろうか。死んだ母そのものに同化するように、少女はぐるぐると坂を転げ回る。一度ならず二度も三度も。最後に川に落ちたポチャンという水音で映画は終わる。またしても決定的な場面は写らない。死は音で表現されるのだ。

感情移入など出来ないが、あまりにも救いのない哀しい映画だ。少女が世間の冷たい視線にさらされ、孤独のなかで森に迷い、男の欲望の犠牲となる。罠に嵌められ殺される小動物の獲物たちのように。行き場を絶たれ、喜びは奪われ、唯一の話し相手であった母も奪われ、少女は男を受け入れ、死への坂を転がり続ける。無垢なる少女のままではいられない生きることの残酷さ。あまりにも哀しい死の戯れ。笑顔も言葉も奪われ、少女は閉じこめられ、ぐるぐると回り続けるしかなかったのだ。残酷で陰鬱な映画だけれど、ロベール・ブレッソンの少女への性的で冷たい眼差し。ただならぬ映画だ。


原題: MOUCHETTE
製作国: 1967年フランス映画
監督: ロベール・ブレッソン
製作: アナトール・ドーマン
原作: ジョルジュ・ベルナノス
撮影: ギラン・クロケ
音楽: クラウディオ・モンテベルディ、ジャン・ビーネル
美術: ピエール・ギュフロワ
キャスト: ナディーヌ・ノルティエ、ジャン=クロード・ギルベール、マリー・カルディナル、ポール・エベール、ジャン・ビムネ、マリー・ジュジーニ


☆☆☆☆☆5
(シ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 人生

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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