「ゴーストライター」ロマン・ポランスキー

ゴーストライター

2011年のロマン・ポランスキーの話題作、やっと観ました。ヒッチコックのようなミステリーにロマン・ポランスキー的な孤島での閉塞感、面白かったです。

1933年仏・パリに生まれ、第2次世界大戦を目前に両親に連れられてポーランドへ。戦時中はナチスから身を隠しながら生き延び、戦争が終わるとポーランドの映画学校に通い、『水の中のナイフ』(62)でデビュー。ハリウッド進出作『ローズマリーの赤ちゃん』(68)は大ヒットを記録するが、当時妊娠8カ月だった妻で女優のシャロン・テートがカルト集団「マンソン・ファミリー」に殺害されるという悲劇を体験。1978年、未成年の少女に性的暴行を加えたとして有罪判決が下ったためフランスに逃亡。以来、アメリカの地は踏めない。2009年、スイス・チューリッヒ映画祭に参加した際、アメリカの要請を受けたスイス警察に身柄を拘束されたが、翌年釈放。この映画の編集は獄中から指示を出したとか。

流浪の経歴である。数奇な人生を歩んでいる。居場所をなくした男。殺人事件の被害家族であり、性的犯罪者でもある。まさに映画のような波乱万丈の人生。だがしかし、数々の優れた映画を作り続けている才能のある映画監督でもある。僕はロマン・ポランスキーの初期の映画『水の中のナイフ』と『袋小路』は傑作だと思うし、大好きだ。そして『チャイナタウン』『赤い航路』も忘れらない。
『水の中のナイフ』『反撥』『袋小路』


冒頭の降りしきる雨とフェリー(フェリーは『赤い航路』を思い出す)。フェリーに残された車と海辺に打ち上げられた男の死体。ミステリーを予感させ映画が始まり、ゴーストライターのことが会話で語られる。元英国首相アダム・ラングの自伝執筆を依頼されるゴーストライターの出版社での面接。I’m your ghost.と自己紹介する名前のない男(ユアン・マクレガー)は、まるでポランスキー監督自身のような居場所が定まらない幻の男だ。

ヒッチコック的な巻き込まれ型のサスペンスである。ゴーストライターは、ラングの自伝執筆をしているうちに、前任者の死に不信を抱き、独自に調査を進めていくが、やがて国家を揺るがす恐ろしい秘密に触れてしまう。

ラング(ピアース・ブロスナン)が滞在する真冬のアメリカ東海岸にある孤島。これはどこでもない場所のような抽象的な島だ。なぜ元英国首相が、このアメリカ東海岸の孤島に住んでいるのか、まるで説明されない。男はこの孤島に連れて来られる。

このシチュエーションがとてもポランスキー的だ。閉塞された場所。まったく何もない淋しい冬の孤島。『袋小路』のまわりは何もないお城のような屋敷を思い出す。あの映画は古いお城に住む夫婦とそこへやってきたよそ者たちの奇妙な行き詰まりの物語だった。乗ってきた車が海水に沈んだりするような閉ざされた場所だった。

ロマン・ポランスキーはいつも閉鎖的空間のなかで、追い詰められ不安定な関係になっていく人々を描くのが得意だ。雨や水もまた登場人物たちを閉じ込める要素としてよく使われる。物語は晴れ渡るような青空の下で、解放的な展開には向かわないのだ。閉じられた場所で登場人物たちはどんどん行き詰まり、不安になっていく。

この映画の孤島も、全くなにもない寂れた島だ。空は曇天ばかりで、時々雨が降り出す。元英国首相アダム・ラングは、やがてある事件で追い詰められて、その島から逃げ出す。残されたゴーストライターとラングの妻ルース(オリビア・ウィリアムズ)。二人きりになることで、二人の関係が微妙に変わっていく。そして、カーナビに導かれるようにして行き着く秘密の場所。ゴーストラーターは、自ら主体的な考えの下に動く存在ではない。さまざまなモノたちに導かれるのだけなのだ。車のナビやフェリーや飛行機、自転車などの乗り物によって。さらに写真や電話番号や原稿に残された秘密が、彼を導びいていくのだ。

エンターテインメント性を含んだサスペンス物語で、観るものを引き込みつつ、政治的な風刺もきかせ、何もない閉鎖的な空間に追い込んでいくポランスキー的世界観を十分楽しめる作品に仕上がっている。



原題: The Ghost Writer
製作国: 2010年フランス・ドイツ・イギリス合作映画
配給: 日活
監督: ロマン・ポランスキー
原作: ロバート・ハリス 『ゴーストライター』
脚本: ロバート・ハリス,ロマン・ポランスキー
撮影: パヴェル・エデルマン
衣装デザイン: ダイナ・コリン
編集: エルヴェ・ド・ルーズ
音楽: アレクサンドル・デスプラ
キャスト: ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリビア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・ハットン、ジョン・バーンサル、デビッド・リントール、ロバート・パフ、イーライ・ウォラック

☆☆☆☆4
(コ)
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ジャンル : 映画

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