「グランドホテル」エドマンド・グールディング

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世に言うところの「グランドホテル形式」の元になった映画史上の名作である。「一つの場所を舞台に、複数の人々のドラマを並行して描く」この群像劇スタイルは今でこそ馴染みのある当たり前のものであるが、当時としては画期的な物語形式であったことだろう。グランドホテルという空間そのものが物語の主役であり、人間(スター)を主役にする物語以上に、空間(舞台)に重きを置いているという意味で、より大きな構造の物語であり、演劇的とも言える。三谷幸喜が『THE 有頂天ホテル』でまさにこの『グランドホテル』そのものをリメイクしている。

1932年の第1次世界大戦の敗戦後間もないドイツのベルリンの高級ホテル「グランドホテル」が舞台。アメリカの映画会社MGMは70万ドルの予算で豪華なホテルのセットを製作し、5人の主役級俳優をオールキャストで配するという、当時としては画期的な娯楽大作を製作し、見事第5回アカデミー作品賞を獲得したという作品。

ナチスの台頭する直前のワイマール憲法下にあったワイマール共和国は、束の間の自由と平和を享受していた。ちなみに、その象徴となったのが1932年のマレーネ・ディートリッヒ主演の『嘆きの天使』で、全世界で大ヒットした。この『グランドホテル』は軍人こそ出てくるものの、ナチス台頭前夜の軍靴を予感させない高級ホテルで展開される様々な人間模様だ。

人気が落ち目になったロシアの花形ダンサーを当時の「スクリーンの女神」グレタ・ガルボが演じ、表の看板女優。一方、速記記者として当時人気上昇中のジョーン・クロフォードも出演。豪華女優共演ながら、二人の共演場面はなぜか一つもなかった。

人物群像の描写が面白い。犬を連れたフォン・ガイゲルン男爵(ジョン・バリモア)は、女性にもてて人柄もいいジェントルマンながら、金に困り部屋に金品を盗みに入る泥棒で、恋など人生にはないと虚無的だ。「お金さえあれば俺だって」と宿泊を申し出たクリンゲライン(ライオネル・バリモア)は、病気のため余命いくばくもないと宣告され、死ぬまでに人生観を180度転換して物語の狂言回しになっている。さらにそのクリゲラインが経理係を務める大企業のオーナーで大社長プレイシング(ウォーレス・ビアリー)は、金に夢中な嫌なやつだが、会社の合併話で必死。秘書になったジョーン・クロフォードに色目を使うも効果なし。彼女も男爵に夢中なのだ。落ち目の花形ダンサーのグレタ・ガルボが鬱気味で自殺でもしかねないところに、盗みに入った男爵に恋をし、急に人生に希望を抱くが、男爵は金の工面のために盗みに入ったプレイシング社長に殺されてしまうという皮肉なお話。

そのほか、いつもグランドホテルに滞在している従軍中に顔にヤケドを負った医者や、子どもの出産に病院に何度も駆けつけるホテルフロントマンなど、小ネタも挟みつつ、人生の悲喜こもごもが展開される。冒頭、それぞれの電話シーンで人物紹介をしつつ、電話交換手の部屋がホテルの俯瞰的な場所として効果的に使われる。社会的強者や弱者、色男やダメ男、お金や名誉、色と欲、様々なものがぐるぐるとまわる中、グランドホテルには人々が集い、去っていく・・・。

このグランドホテル形式は、<ホテル>だったり<町>だったり、あくまでも<空間>が主役なのだ。その場所に出入りする人間たちの悲喜こもごもをより大きな視点で描いているのが面白さの真髄だ。単一な物語ではなく、複数の物語が錯綜するこの形式が僕はわりと好きだ。ロバート・アルトマンの傑作『ナッシュビル』を思い出すし、大好きなジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』もある意味ではこのグランドホテル形式だ。



グランド・ホテル(1932)
原題:GRAND HOTEL
MGM支社配給・114分
監督: エドマンド・グールディング
製作: アーヴィング・G・サルバーグ
原作: ヴィッキー・バウム
脚本: ウィリアム・A・ドレイク
撮影: ウィリアム・H・ダニエルズ
出演: グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、ウォーレス・ビアリー、ライオネル・バリモア

☆☆☆☆4
(ク)
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