「ピナ・バウシュ 夢の教室」アン・リンセル

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ダンス経験のない40人の少年少女が世界的舞踏家ピナ・バウシュの下に集まり、ピナ・バウシュの代表作として知られる「コンタクトホーフ」の舞台に立つまでの10カ月を追ったドキュメンタリーだ。

ヴィム・ヴェンダースが映画化した『Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち』はプロのダンサーたちによるピナ・バウシュの踊りの世界が楽しめたが、この少年少女たちは、全くのダンス経験のない素人たちだ。そこには、無造作であるがままの身体があるのみだ。技巧的な美しい身体があるわけではない。ピナは、そんな彼ら彼女たちの身体を少しづつ解放していく。心の抑制を外していくのだ。

恥ずかしがらずに笑いながら走り回ること、泣くこと、怒ること、叫ぶこと。腰をふり、手足を動かし、触ったり、いじったり、叩いたりという身体的動作を通じて、人との関わり方を少年少女たちは、照れながら少しづつ広げていく。ピナ・バウシュの踊りとは、単なる形式的、技巧的な踊りではない。ある意味で演劇的だ。声を出し、感情をあらわにし、時には欲望を、時には暴力を、恥じらいや可愛さや性的アピールを、あらゆる思いを表現する。それは人間の根源的なものに踊りを通じて働きかけていく行為だ。そんな身体表現を、思春期のさまざまな事情を抱えた子供たちが体験することで、何かが変わっていく。演劇好きの少年、ロマの子、不慮の事故で父を亡くした少女やヒップホッパー、コソボ紛争で祖父を亡くした子など、それぞれ子供たちの家庭の事情は様々だ。

心の壁を取り払い、感情表現や人との関わり方を、彼ら彼女たちは新たに体験していく。そのことが感動的なのだ。踊りの動きの美しさや完成度などは問題ではなく、踊りや動作が人と関わり、何かを伝えるための表現なのだとあらためて気づかされる。そんな極度に誇張された身体表現を子供たちが実践することで、人との関係を学んでいくのだ。10か月経つと、固まり強張っていた身体は、みずみずしく自由に生き生きと動き出し、躍動し出す。これだけの濃密な経験は、そう体験できるものではない。ピナへの信頼なくしては、身体は解放できない。そんな身体の広がりを体験した彼らは、きっと新たな人との関係を獲得したことだろう。そんな子供たちの変化をまざまざと目撃し体験できることがこのドキュメンタリーの素晴らしさだ。


原題:Tanztraume - Jugendliche tanzen Kontakthof von Pina Bausch
製作国:2010年ドイツ映画
配給:トランスフォーマー
監督:アン・リンセル
撮影:ライナー・ホフマン
キャスト:ピナ・バウシュ、ベネディクト・ビリエ、ジョセフィーヌ・アン・エンディコット

☆☆☆☆4
(ヒ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : ドキュメンタリー

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