「ガープの世界」ジョージ・ロイ・ヒル

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ジョン・アーヴィングの新作『あの川のほとりで』を読んだばかりだったので、かつて原作を読む前に公開時に観た『ガープの世界』をもう一度見直してみた。あのペニスを噛み切る痛ましい交通事故のシーンが強烈に脳裏に焼きついている。とてもショッキングな映画だったことをよく覚えていた。

あらためて見ると、ジョージ・ロイ・ヒルは、ジョン・アーヴィング的世界をテンポ良くまとめているなという印象。いい映画だと思う。ジョージ・ロイ・ヒル監督といえば、『明日に向かって撃て!』『スティング』『スローターハウス5』などがあるが、重たい話も小気味よいテンポでオシャレに演出できる力を持っている監督だ。

オープニング、赤ちゃんが空を浮遊する映像で始まり、ビートルズの名曲「When I'm Sixty-four」が軽快に流れてくる。空から降ってくるような突然の避けられないアクシデントと家族と性と欲望についての映画だ。

<空の浮遊>と<落下>のテーマが、全編を通して描かれる。赤ちゃんの浮遊で始まり、父親がパイロットだと夢想する子ども時代の屋根からの落下と宙吊りのエピソード、初めて書いた短編小説の原稿は宙に舞い、その内容は、アパートの窓から魔法の手袋を落下させて飛び降りる男の話だ。家を買おうとする時は、突然、軽飛行機が空から落ちてくるし、車のライトを消して家の近くの坂道を上る場面は、「空に浮かんでいるようだ」と語られる。そして映画館からの帰り道のあの夜も、雨降る水の中で車は空を飛ぶ。あの忌まわしい事故こそは、人生の落下ではないか?そして、ガープが最後に撃たれたあと、ヘリコプターから町を見下ろし「飛んでいる」とつぶやくラストシーン。

空を浮遊することを夢見つつ、何度も墜落するイメージが描かれる。この世は、突然どんな落下があるか分からないのだ。それは、住宅街に突然現れる赤い車のように、理不尽で暴力的だ。この理不尽な突然の人生の落下事故こそ、ジョン・アーヴィング的テーマなのだ。

子どもの寝顔を見ることが何よりも「幸せだ」と感じるマイホームパパであるガープが求める家族像は、一夜にして、あっ気なくバラバラに崩れる。そのとき、おなじみジョン・アーヴィングの身体的欠損の痛みが伴う。この映画の場合は、妻の恋人のペニスだったりしたわけだが、ガープは事故で自分の分身ともいえる最愛の長男を失う。一方で、女性人権運動家である母ジェニーにもとに集まるエレン・ジェイムズ党員は自らの舌を切り取る。男性の性的暴力に抗議して。しかし、この自ら身体を傷つける行為に対して、ガープは強い憤りを示すのだ。理不尽な暴力(落下)によって、身体的欠損(長男を奪われること)を引き受けなければいけないと宿命づけられる者にとって、自ら身体を傷つける行為は赦されないことなのだ。

性の暴力と死を描きつつ、それを引き受けなければ生きていけない人間の哀しみ。「浮遊」の夢と「落下」の運動を通して、家族愛の強さを描いた作品。

ハロウィンの夜に、親子で熊の着ぐるみを着て歩くシーンは、ジョン・アーヴィングファンにはうれしくなるサービスだ。

※参考『ガープの世界』ジョン・アーヴィング

ガープの世界(1982)
THE WORLD ACCORDING TO GARP
上映時間 137分
製作国 アメリカ
監督: ジョージ・ロイ・ヒル
製作: ジョージ・ロイ・ヒル、ロバート・L・クロフォード
原作: ジョン・アーヴィング
脚本: スティーヴ・テシック
撮影: ミロスラフ・オンドリチェク
美術: ヘンリー・バムステッド
音楽: デヴィッド・シャイア
出演: ロビン・ウィリアムズ、メアリー・ベス・ハート、グレン・クローズ、ジョン・リスゴー、ヒューム・クローニン、ジェシカ・タンディ、スウージー・カーツ、アマンダ・プラマー、ウォーレン・バーリンジャー、ブランドン・マガート、ジェニー・ライト

☆☆☆☆4
(カ)
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