「南の島でえっへっへ 太平洋ひとり旅」おがわかずよし(廣済堂文庫)

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パプアニューギニアにいる友から手紙が届く。
『南の島でえっへっへ 太平洋ひとり旅』おがわかずよし著(廣済堂文庫)という本が出版されたという案内だ。

彼は僕と同じ時期に会社に入った同期だ。彼はラジオディレクターとしてとてもユニークで優秀な男だった。いつも一緒に遊んでいた。それが突然、会社を辞めて南の島へと旅立ってしまったのだ。会社で働いたのは4年ほど。28歳で南の島へと旅立って以来、彼はサモア、フィジー、パラオ、トンガ、ツバル、ガダルカナル諸島などなど南太平洋の島々を渡り歩く生活をしている。その旅行記が数年前に単行本になり(『天下太平洋物語』)、今回はその本から抜粋、増補して文庫化されたのだ。

まったく肩の凝らない珍道中の旅エッセイになっているので南の島に興味のある方はどうぞ。

彼が会社を辞めたとき、僕はちょっと羨ましかった。そのとき僕はすでに結婚もしていて子供もいて、「お前には出来ないだろう」と彼に言われた。全くお気楽な面白い男で、彼は「この会社にこれ以上いてもダメになるばかりだ」と見切りをつけて、とっとと辞めていった。いつも何かに追いかけられている仕事に嫌気もさしたのだろう。僕は南の島にいる彼のことを時々思い、羨ましく思っていた。ずっと彼に嫉妬し続けているのかもしれない。

彼がパラオにいたとき、一度家族を連れて遊びに行った。本当に天国のようなのんびりとした島だった。かつで太平洋戦争で戦地となった島で、零戦も海に沈んでいた。グアムなどと違って、観光地化もそれほどされていない島は、懐かしくのどかだった。

彼はなんと自分が出した本の読者の日本人女性と結婚していた。当時、まだ新婚でパラオに住んでいた。こういう生き方もあるんだ、と僕はいつも彼を思いながら考える。生き方はどこまでも自由だ。どんなことをしていても、なんとか生きていけるのだ。ちなみに来年1月、パプアニューギニアから戻ってきたら彼は無職だとぼやいていたが。

南の島で暮らすことは、僕の憧れだけれども、やっぱり憧れのままで終わるのかもしれない。僕はこの北の地を離れなれないのかもしれない。それはそれでしょうがない。いつどこでどんな縁があるか誰にも分からない。人はその縁とともに、何かを求め、求められ、必要とされ、何かを成し遂げ、あるいはただただそれぞれの日々を生きているのだ。

そんなふうに、僕は南の島にいる友のことをときどき思う。


あらためてこの能天気な南太平洋の島々の旅行記を読んでみる。う~ん、本当にお気楽なやつだ。なるようになるしかないという風まかせの人生。しかし、こんな風に生きられるのは柔軟性がないととても無理だなと思う。何かに縛られたり、ある価値観から自由になれないと、とてもそれぞれの土地に順応できない。亀の肉や羽蟻を食べる場面などあるが、現地で何を食わされるかわかったもんじゃないのだから。そして得体の知れない酒や風習、さまざまなものに好奇心をもって挑みつつ、タフに過ごさねば、その日の寝床も食うものにも困るわけだ。まぁ言ってしまえば、現地の人と仲良くなって、面倒みてもうらうヒモのような生活なのだから、調子がよくないとダメだ。一方で、彼もときどき反省しているところが面白い。面倒をみてもらうのが当たり前になって、せびられるのをケチり、傲慢になっていたことを反省したりするのだ。

ただ、僕らはこれら南の島々での人々が、豊かで便利なものに囲まれているわけではなくとも、ほどほどに幸せに暮らしていることに気づく。自己利益を追求し、個人主義的な世界観のもと、競争社会の中で生きている我々とは違って、みんなでのんびりとヨロコビを分かち合って生きている。食物を分け合い、自然とともに、部族のみんなとともに生きている世界。一方で、先進国の文化に毒されて日々変わりつつある現実もちゃんと描いてある。夢物語ばかりではない現実を。

彼のバランス感覚は、なかなか鋭い。

戦争中、日本軍に占領され統治された島の人々が意外に親日的だということを書いている。日本統治時代を懐かしんでさえいると。
「日本人は親切だった。ぶん殴られたのは悪いことをしたから。戦争中の出来事は誰が悪いのでもなく、戦争だったから仕方がない」。

だからといって、この日本語も出来る年寄りたちの美化された昔話を聞いて、「日本は本当はいいことをしたんですよ」と言い始める日本人もいる。「日本時代のおかげで、キレイな町が出来て・・・」と。

不愉快であってもあからさまに目の前の人を非難しない太平洋人気質と、日本人に話しかけてくれる人は明らかに日本人贔屓であることを差し引かないといけない、と能天気なこの旅行者は語る。日本にイヤな思い出のある年寄りは、当然近づいてこないし、話しもせずに言葉を濁す。

だから彼は、「日本はヒドイことをして・・・」とばかり言う人には、「でも結構年寄りは日本統治時代を懐かしがっているんですよ」といい、「日本統治はすばらしいものだったので、日本は尊敬されている」という人には、「ちょっと待った」と言うことにしているのだそうだ。

今の私たちが失ったものが、確かに南の島々にはある。一方で、その生活が夢物語ばかりではない。そんなプラスとマイナスのバランスを距離をもちながら見つめているあたりが、この能天気な旅行記の面白いところだ。

第7章のヤップ州ウォレアイ島の「ふんどしパラパラ突撃隊」のラストの月夜の若者たちのシーツ踊りはなんともいい。

いつの間にか月が出ていた。
うっすらと射す月明かりに浮かぶ娘は、たわわな乳房をわしの目の前30センチのところでぷりんぷりん揺すりながら踊っている。と、そこに3人の男女が合流した。6つの若いぷりんぷりんがわしのまわりで跳ねまわる。波の音を聞きながら、小さなラジカセから流れる島のメロディーに乗って、影たちは広い滑走路を自由自在に飛び回る。
ラパラパ仮面はとても幸せだった。
ラパラパ仮面は世界の平和を心から祈るのであった。



(み)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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