「質屋」シドニー・ルメット

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異色な問題作だ。ユダヤ系を中心としたアメリカ映画界が、初めてホロコーストとユダヤ人問題を正面から取り上げた作品と言われている。

ソル・ナザーマン(ロッド・スタイガー)はニューヨークの貧民街で質屋を営んでいる。かつてポーランドで大学教授だったが一家は大戦中ナチの強制収容所に入れられ、苦しみの中で妻子は殺された。そのホロコーストのトラウマの記憶を抱えながら、無表情に言葉少なく冷淡に質屋の仕事をしている。お店の助手のジーザス(ハイメイ・サンチェス)は、プエルト・リコ生まれの若者で、ゆくゆくは質屋経営をしたいと未来への夢がいっぱいで、ソルと対照的に描かれる。

映画は1秒にも満たない短い映像が何度もフラッシュバックされる。サブリミナル効果かと思われるほどの短いカットもある。美しき自然の中でくつろぐ幸福な家族の情景。そしておぞましいホロコーストの映像の数々。地下鉄にソルが乗った時に、地下鉄の乗客がみんなホロコーストのユダヤ人列車に入れ替わる場面などゾッとするものがある。

そんな寡黙なソルが、助手のジーザスにユダヤ人のことを雄弁に語るシーンがある。数千年も土地も持てずに彷徨い続けたユダヤの民。国も軍隊もない中で選ばれた民として生きてきたユダヤ人は、布を安く買って二つに切って元値より高く売って、節約して金を貯めた。耕す土地を持つことをあきらめ、商売人と呼ばれ、金貸しと呼ばれ、魔女と呼ばれ、質屋と呼ばれ、差別されてきた。そんなユダヤ人の恨みを滔々と語る。家族を守れなかったソルは、ホロコースト時代の痛ましい記憶から、何もかもが信じられなくなった。プエルトリコ系のジーザスが「黒人だから差別するんですか?」という問いかけにも「私は人種差別はしない。どんな人間も平等にクソだ」「私は神を信じない。芸術も科学も政治も哲学も信じない!」「信じるのは金だけだ」と言うのだ。

この映画で面白いのは、スラム街を牛耳っているボスが黒人であることだ。しかも白人の愛人のような男を部下として従えている。ユダヤ人にプエルトリコ人、そして黒人。ニューヨークのスラム街の質屋に集まる移民たち。インテリの黒人は、ソルに話し相手になってもらいたくて質屋にやってくるし、好意を寄せてくれる女性も現れる。しかし、ソルはそんな人々と関わることを拒絶する。

ジーザスの恋人である黒人女性が、愛する男を救うためにソルの前で裸になる場面がある。胸をさらけ出すこのシーンは、アメリカ映画史上初めてのヌードだと言われている。しかし、ソルにとってはそんな女性の露わになった裸も欲望の対象ではなく、ホロコーストで蹂躙された妻の痛ましい裸と重なって記憶がフラッシュバックされるだけなのだ。

そしてラスト、質屋の金を盗みにきたジーザスのチンピラ仲間たちが、ソルを拳銃で脅そうとする。そんなソルを庇おうとして、ジーザスが身代わりに撃たれてしまう。ジーザス=神を見殺しにしてしまったソルは泣き崩れる。そして、自らの手をピン刺しで傷つけるのだ。それはまるでキリストの十字架刑の再現のようだ。最後は、ソルがフラフラと町を彷徨う後姿で映画は終わる。

数千年と苦汁を舐めてきたユダヤ人の思いが託された映画だ。神に見放され、救われないまま生き長らえた男に、再び神を見殺すという試練を与える。まさに彷徨えるユダヤ人の苦悩だ。

『十二人の怒れる男』でデビューしたシドニー・ルメット。ブロードウェイの演劇畑からCBSのテレビ・ディレクターに、そして映画監督になった社会派の職人監督だ。いつも濃密な息づまるような人間ドラマを描いてきた。『セルピコ』『狼たちの午後』『旅立ちの時』、そして遺作となった『その土曜日、7時58分』。どれも好きな映画だ。この『質屋』を見て、そのただならぬ演出力に脱帽した。まだ未見の作品も見なくちゃ。


原題: The Pawnbroker
製作国: 1964年アメリカ映画
監督: シドニー・ルメット
製作: エリー・A・ランドー、フィリップ・ラングナー、ロジャー・ルイス、ハーバート・R・スタインマン
原作: エドワード・ルイス・ワラント
撮影: ボリス・カウフマン
音楽: クインシー・ジョーンズ
キャスト: ロッド・スタイガー、ジェラルディン・フィッツジェラルド、ブロック・ピータース、ジェイミー・サンチェス

☆☆☆☆4
(シ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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