「現代霊性論」内田樹・釈徹宗

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内田樹と釈徹宗による神戸女子学院で行われた対話型講義(かけ合い漫才風講義)の模様を編集したもの。つまり喋り言葉で現代の霊性に関する二人の授業を聴いているようなものでわかりやすい。ほとんどは釈徹宗さんの多岐にわたる宗教概論の講義に、横から内田樹氏が適当に思いついたことを茶々を入れる感じで喋るのだ。

あとがきで、釈徹宗さんは書いている。

現代人は「自分らしく生きろ」「自分を確立せよ」「自己を表現せよ」というメッセージを受け続けて暮らしている。社会では自己決定が求められる場面は増加傾向にある。しかし、人間の心身は「自分というものが強ければ強いほど、苦悩も強くなる」というメカニズムになっているのだ。これでは相反する二方向に引っ張られ続けることになる。現代人は、自分が別々の方向へと引き裂かれるような苦悩に身もだえしているのではないか。…(略)やはり、この苦悩の人生を生き抜き、死に切るカギは宗教性や霊性にあると思う。


さて、霊とは何か?日々の生活の中で、私たちは「霊」という「わけのわからないもの」に現実には支配されている、と内田は語る。生活習慣や身体実感に深く入り込んでいるのだ、と。死者を弔う宗教儀礼から「呪い」まで。霊は「はい、これです」と差し出すことはできないが、霊がどのように機能しているか「現象学的」アプローチは可能だと言うのだ。

以下は、私が本書を読んで気になった箇所の極私的なメモである。

釈:日本は近代以前は「死んだ霊は、大いなる全体に還る」という考え方が一般的だった。死んだら「祖霊」として先祖の霊になる。しかし、明治維新以降、個人に名前が付けられ「個人」という縛りがつけられ国民国家が成立した。霊魂もまた、共同体的だったものが、個別的になっていった。

内田:靖国神社の「A級戦犯の分祀問題」は、「一度は神として祀られたものは、後から分けることが出来ない」という前近代の「霊に個別的な格はない」という神社側の考え方と、「A級戦犯だけは分祀してくれ」という霊の個別性という近代的な考え方の齟齬。この「個としての死者」の考え方は、次第に一般的になっており、政治的宗教的に吟味すべき問題。

釈:現代社会では、日本的宗教感が崩れつつある。都市生活には土俗的な宗教性がない。でも人間は「縛り」がなくては生活できない。だからこそ「占い」や「スピリチュアル」がブームとなる。

内田:供養とは「その人が生きていたらするであろうふるまいを繰り返すこと」。

釈:都市生活はハレの常態化。
内田:ハレが常態化すると、刺激の閾値がどんどん上がる。政治的に危険な方向へ向っていく。

釈:幕末から明治に最初の宗教ブーム。
  神道系…「天理教」「黒住(くろずみ)教」「大本(おおもと)」→個人や家庭の苦悩に応答しようとする姿勢。
  敗戦後の宗教ブーム。法華経系、日蓮主義系…「創価学会」「霊友会」→新宗教
  1970年代以降の宗教ブーム。「真如苑」「世界救世教」「阿含宗」「真光」系「GLA」「ものみの塔聖書冊子協会(エホバの証人)」「世界基督教統一神霊教会」「念報眞教」  

1975年を起源として第3期宗教ブームが生まれた(第1期は明治維新、第2期は1945年敗戦時)。万博が示した未来感がオイルショックから疑問が生まれ、「前に進んで競争に勝てれば幸せか?」と思うようになった。そしてアメリカのベトナム戦争の敗戦で、アメリカンドリームが終焉。サクセス・モデルとしてのアメリカ幻想が崩れ、ユリ・ゲラーを始めオカルティズムが生まれた。そして80年代、代表的な「ポスト新宗教」が次々と生まれていった。そこでは、「信仰すればご利益がある」という現世利益よりも、自己変革や自分探しが主題になっている。

内田:村上春樹の小説は「霊的な世界についての成り立ち」が主題。「失われたもの」を探しに行く話。何かを探してくれと依頼されるのだけれど、途中でどうも自分がほんとうに探さなくてはならないのは、その依頼された「失われたもの」ではないことに気づく。「本質的な仕方でこの世界から失われたもの」の探索者に自分が任じられていることに気づく。でも、自分がいったい何を探さなければいけないのか、わからない。ほんとうにすぐれた探偵は自分が何を探しているのかわからないものを探し当てることができる人なんです。

釈:宗教が持つ3つの特徴。1つは「この世界の外部を設定する」こと。神や前世や来世といったこの世界を超える体系があり、この世界と外部の世界との回路が出来るよう「チャンネルを開く」方向性を持つ。2つ目は「儀礼」を共有すること。3つ目は、象徴(シンボル)機能。「南無阿弥陀仏」や「マントラ」が代表的な象徴。


内田:最も破壊的な暴力は「死者のために/死者に代わって」何をなすべきかを「私は知っている」と主張する人々によってもたらされる。死者がどう弔ってほしいのか、私は知らない。私は知らないけれども、私なりの喪の儀礼を行う。それが他の人の行う儀礼よりも正しいかどうか、有効かどうか、それを生きている人間は誰も言うことができない。その謙抑的な態度が喪の儀礼の本質的な宗教性をかたちづくっている。死者の声を聞き取りたい、でも聞こえないという「宙吊り」状態のうちにあえてとどまる節度が服喪という儀礼の霊的な豊穣性を担保する。

釈:食事は儀礼的要素。それまで動物や植物、生き物であったものが移行されることで、食べ物として再統合される。その際には儀礼が必要。それが「いただきます」。儀礼を通して初めて人間は他の生き物を食べられる。

釈:そんな儀礼が軽視されてきた近代社会。

釈:タブーは境界線上にある。自分と他者の境界線は家族。「人を食べること、殺人、近親相姦」が人類三大タブー。ペットを食べるのも、自分と動物を分ける境界線上にある生き物だから。「敷居を踏んだらいけない」というのも、敷居が境界線上だから。

内田:橋は境界線上にあ。不思議な事件やトラブルは「橋の上」で起きる。今日の五条の橋の上で義経と弁慶が出会うように。クロスロードで悪魔と出会うのも欧米の典型的な話型。橋の上と四つ辻は「異界との通路」だ。「たそがれ」は「誰そ彼」という誰であるか特定でいない状況。「逢魔が時」。

内田:境界を通過すると、私たちは何か別のものになる。
釈:別のものになるとき、儀礼が必要。死の儀礼も、生きているものから死者へ、この世から来世へ移行するための通過儀礼。
内田:儀礼とは、「何でこんなことをやるのかわからないにもかかわらず、止めることができないもの」。起源をたどることのできないもの。こういう儀礼に人間はもっと畏れの気持ちを持つべきだ。

内田:僕らは直線的、不可逆的に時間が進んでいって、過去はどんどん忘れ去られてゆくと思っているけれど、実はそうじゃない。進みながら戻ったり、全容が俯瞰出来たと思ったら、視界が狭窄したり、時間は進んだり戻ったり、伸びたり縮んだりしているような気がします。だから、死というものも、そういうダイナミックな時間意識の中でとらえるべきじゃないかと思うんですよ。
生と死は対立しているものでもないし、生の終わりに死があるわけでもない。僕たちは死を「前倒しに」味わうことで、初めて生きている。

内田:僕は自我というのは一種の仮設だと思っているんです。外と内という言い方をしたときに、自我というのは内側のことだと思う人がいるけれど、そうじゃない。外と内の境界面みたいな、被膜みたいなものが自我じゃないかと思います。それの外も自我じゃないし、内も自我じゃないし、その両方が入り組んでいるところが自我なんです。

内田:「予言の自己成就」って危険なことなんですよ。「北朝鮮が攻めてきたらどうするんだ」というロジックで国防が喫緊の課題であることを訴える人がいますけれど、そういうことは言わない方がいい。「北朝鮮が攻めてくるかもしれないから国防体制を整備しよう」と主張する人の正しさは実際にそういう事態になることによってしか証明できないから。「ほら、だから言わんこっちゃない」と胸を張って言えるように、無意識的に「そういう事態」の到来を待ち望んでしまう。人間というのはそういうもの。

釈:「宗教思想が鍛錬されないと、副次的毒の歯止めが利かない(内田)」から、腰を据えて自分の宗教性や他者の宗教性と向き合わねばならない。そして「スピリチュアルなフィールドは閉じてはいけない」。「宗教や霊性に関わる言説も開いていこう」、これこそが本書最大の長所だ。

(け)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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