明るく前向きな言葉の呪い

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先日、カフカの『変身』を読み解くテレビ番組をやっていたので見ていた。カフカは結構好きなので。ゲストに『絶望名人カフカの人生論』を書いた頭木弘樹さんが出ていた。書店に並んでいたので、少し気になっていた本だ。

「あなたは大丈夫」とか「ガンバレ」とかいうような明るい前向きな言葉が、絶望している人間には鬱陶しく感じ、それよりも「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」というようなカフカのダメさや弱さの言葉のほうが、共感できて力をもらえるというような話をされていた。彼は、学生時代に突然難病を患い、まともに仕事に就けないことを医者に宣告されて、絶望していた時期があったのだそうだ。

彼が『変身』のなかで取り上げていたのは、虫になったザムザのことを思って世話をしていた妹は、必要のなくなった家具をどけて、虫として動きやすいような部屋にしてやった描写だ。ここには「やさしさにこめられた残酷さがある」というのだ。妹は虫として動きやすいように部屋の家具をどけた。ザムザのことを思いやった善意なのだが、そのことは同時に、虫としてあり続けることを固定化する行為でもある。

誰かを「助けたい」という「やさしさ」の裏側には、その人にとって、助けられる存在が必要だ。つまり、「いつまでも助けを求めて弱っている状態」を知らず知らずに欲望しているということでもあるのだ。

震災直後の日本中のキャンペーンの「ガンバレ」の裏側には、そういう残酷さも潜んでいたということだ。やさしさと残酷さは裏返し。希望と悪意も裏返し。だから、カフカのような絶望や堂々巡りの解決不能な不条理さや、ロートレアモンの『マルドロールの歌』(マイミクの太助太郎さんの人気で取り上げられていた)のような毒や悪意も必要なのだ。

内田樹氏がよく言うのは・・・

「北朝鮮が攻めてきたらどうするんだ」というロジックで国防が喫緊の課題であることを訴える人がいますけれど、そういうことは言わない方がいい。「北朝鮮が攻めてくるかもしれないから国防体制を整備しよう」と主張する人の正しさは実際にそういう事態になることによってしか証明できないから。「ほら、だから言わんこっちゃない」と胸を張って言えるように、無意識的に「そういう事態」の到来を待ち望んでしまう。人間というのはそういうもの。(『現代霊性論』)

「預言の自己成就」という言葉の呪いもあるのだ。言い続けることによって、希望が叶うこともあれば、知らず知らずのうちにその言葉の呪縛となり、思わぬ悪意を撒き散らしていたり、望まぬことの到来を欲望してしまったりする場合があるのだ。言葉とは、だから恐ろしい。

蛭子能収がさんまのバラエティ番組で、「自らの幸せな振る舞い」を人に見せたくないと言っていた。そういう人の幸せを見て、木の影からジッと見ているような妬む人がいるからだと。妬みや恨みを自らの漫画のテーマにしている彼らしい発言だが、幸せそうな姿を見て、「いいなぁ」と思う人ばかりではいないことを知る必要がある。同じように、前向きで明るい言葉も、呪詛にしかならない場合もあるのだ。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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