「情事」 ミケランジェロ・アントニオーニ

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失踪ものの作品といえば、やはりこの映画をまずは思い出す。フランソワ・オゾンの『まぼろし』に触発されて、久しぶりにこの映画を見た。なんせ映画前半部で、ひとりの女性が行方不明になり、そのまま映画の最後までその女性は出てこないのだ。絶海の孤島で忽然と消えてしまうアンナ。警察も含めてみんなで探すのだが、自殺だったのか、事故だったのか、あるいは別の島に渡って生きているのか、まったく謎のままで映画は終わってしまう。

数十年ぶりで見直したミケランジェロ・アントニオーニのの不毛三部作の最初の作品と言われている失踪映画『情事』。う~ん、やっぱりミケランジェロ・アントニオーニの空虚感はいいなぁ。からっぽの空間、不在感。満たされぬ顔のモニカ・ヴィッティがとにかく美しい。ミケランジェロ・アントニオーニは大好きな映画監督だ。彷徨える空虚感は、ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュ、あるいはアキ・カウリスマキあたりにも受け継がれているような気がする。

失踪するアンナ(レア・マッセリ)は、婚約している恋人サンドロ(ガブリエル・フェルゼッティ)との関係に不満を抱いている。女友達のクラウディア(モニカ・ヴィッティ)と彼の家に迎えに行くも、「旅行には行かない」と突然言い出したかと思うと、クラウディアを待たせっぱなしにして、サンドロと情事をする。気まぐれな金持ち娘といった感じだ。だから、地中海の島々をヨットでめぐっているとき、突然海に飛び込み、サメが出たと嘘をついて大騒ぎをしてみたりもする。そんな情緒不安定で身勝手な女アンナが、無人島で突然消える。恋人サンドロと結婚をめぐって言い争いをしたあとに。孤島の断崖絶壁、荒々しい波しぶき。事故で海に落ちたかのようでもある。この孤島での不安感は、ロマン・ポランスキーの『袋小路』や『水の中のナイフ』にも似ている。海が不在の不安を掻き立てるのだ。フランソワ・オゾンの『まぼろし』もまた海辺だった。

いなくなったアンナのことを一番心配して探していたクラウディア。しかし、クラウディアはサンドロという男に惹かれていく。後半はどちらかというとロードムービーだ。サンドロという男が、ただのいい加減な女好きというだけでもあるのだが、アンナをともに探す旅が二人を近づける。三角関係の不在のひとりと残された二人というシチュエーションは、村上春樹のテーマでもある。

アンナに対して疚しいという気持ちを抱え、サンドロの思いを拒否しつつも、逆に求めてしまうクラウディア。親密になったホテルで、外から聞こえてくる流行歌にあわせて踊りながらはしゃぐ場面がいい。この映画で唯一、明るい場面だ。しかし、その明るいクラウディアの表情もサンドロの対応で、一瞬に曇る。がいかにあやふやで不確かなものかを表わしている場面だ。いなくなったアンナの服を身にまとうという場面もあるが、クラウディアはアンナの身代わりなのか。金髪のアンナがショートの黒髪のカツラをかぶるシーンもある。クラウディアはアンナにソックリだったリする。サンドロにとっては、クラウディアは唯一無二の存在なのか、それともアンナの身代わりにしか過ぎないのか。そんな不安をいつでもクラウディアは抱えているのだ。いつかアンナが現れて、サンドロと密会しているかもしれないという妄想に駆られる。朝方までベッドに戻ってこないサンドロをクラウディアは不安になって探す。そして、別の女といちゃついているサンドロを目撃して、映画は終わる。

サンドロが女にだらしない男に過ぎなくて、そんな馬鹿な男を好きになった女のメロドラマといえばそれまでだが、の関係の不確かさ、自らの存在証明になりえない不安、空虚感が描かれている。映画で描かれる「の成就」が偽りのハッピーエンドであることを告発するかのように。それを無人島の断崖や空や海、あるいは誰もいない町で声がこだまする空き家、突然そばを通り過ぎる列車や、がらんとした朝のホテルの廊下や場当たり的ななどで表現している。ラストは、クラウディアがサンドロを探し当てなくてもよかったような気がする。不安や謎がそのまま投げ出された方が、映画としては面白かったのにな、と思う。確かなものなどこの世には何もない。人間は謎なのだ。



情事(1960)
L' AVVENTURA
THE ADVENTURE
上映時間 129分
製作国 イタリア
監督: ミケランジェロ・アントニオーニ
原案: ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本: ミケランジェロ・アントニオーニ、トニーノ・グエッラ、エリオ・バルトリーニ
撮影: アルド・スカヴァルダ
音楽: ジョヴァンニ・フスコ
出演: モニカ・ヴィッティ、ガブリエル・フェルゼッティ、レア・マッセリ

☆☆☆☆☆☆6
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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