「私が、生きる肌」ペドロ・アルモドバル

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変態監督ペドロ・アルモドバルの変態ぶりが遺憾なく発揮されているようでいて、意外とオーソドックスな顛末で終わらせている。肌を移植しても、心までは変えられない…。まるで手塚治虫の「ブラックジャック」と「鉄腕アトム」と「リボンの騎士」を混ぜ合わせたような映画だ。マッド・サイエンティストが作り出す人造人間というテーマは、「フランケンシュタイン」や「メガロポリス」をはじめ、古今東西の数々の映画を生みだしてきた。科学と未来の夢と恐怖である。そしてその定型パターン通り、操られて作りだされた人造人間の怒りの哀しみによってマッド・サイエンティストは破滅の道をたどる。

この映画は「肌を身に纏う」話である。それはあたかも洋服のように。誘拐された青年が店で洋服のデザインの仕事をしているのは象徴的だ。洋服は身に纏うことによって美しく変身できる。しかし、ロべルの娘は結婚パーティーの夜、ドレスを着ていることを嫌がり、自ら脱ぎ捨て、靴もまた投げ捨てる。纏うことの拒否。同じように誘拐された彼は、あてがわれた洋服を粉々に破り裂く。そして掃除機で一気に吸引してしまう。裸でありたいという若者たちの願望。身に纏うことは自分が自分でなくなるとでもいうように。

一方、天才形成外科医ロベル(アントニオ・バンデラス)は、洋服の一片のように皮膚を少しずつ移植していく。失われた妻の面影を求めて。焼け焦げた哀しみを再生させるために。それは一回限りの命をもう一度蘇らせる行為だ。過去を取り戻すこと。そして、肌に張り付いたボディ・ストッキングを着させてその皮膚を定着させる。

性のマシーンと化した野獣である男は、虎の衣装を身に纏い過去の世界から突然現れる。虎の衣装は犯罪から身を隠すためでもある。虎を身に纏うことで、虎そのものとして、性の野獣と化す。しかし、ベラは皮膚を纏うことでベラそのものとして生き返りはしなかった。過去を再生することは出来なかったのだ。

脱ぎ捨てることと身に纏うこと。相反する二つのことは、演じることとどこか似ている。それはロべルとベラがカメラを通して、視る者と視られる者であり、操る者と操られる者、監督と女優の関係のようでもある。この撮ること、撮られること、虚像と実像の二重性は『抱擁のかけら』から繰り返されているテーマだ。

この映画がとことん異様な世界へと向かうとすれば、皮膚を身に纏うことで、男と女の垣根を越え、まったく別の人格を獲得することの方がゾクゾクするような気がするのだが、ラストはいたって普通の展開だった。それが意外であり、なんだか変態ぶりがモノ足りない気もした。


英題:THE SKIN I LIVE IN
製作年:2011年
製作国:スペイン
監督: ペドロ・アルモドバル
原作: ティエリ・ジョンケ
撮影: ホセ・ルイス・アルカイネ
美術: アンチョン・ゴメス
音楽: アルベルト・イグレシアス
キャスト:アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ、マリサ・パレデス

☆☆☆☆4
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