「誠実な詐欺師」トーベ・ヤンソン 冨原眞弓訳

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フィンランドの作家、ムーミン・シリーズのトーベ・ヤンソンの晩年の長編です。自分でなぜこの本を買ったのかよく覚えていないのですが、いつのまにか手元にあって読みました。

もっと童話的なほのぼのとした話かと思いきや、とてもシビアな面白い本でした。人間にはどこかラフな曖昧さが必要なのかもしれない。人と交わって変わったり、共有できる余白が。不器用な厳格さ=「誠実さ」が時に人間関係を息苦しくさせる。

雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」の住む老女性画家アンナ。お金に無頓着で、人を疑うことを知らないお金持ちのお人よし。一方で他者に対して無関心な自分の世界だけに生きる人でもある。そんな兎屋敷に住む彼女に対し、従順な犬をつれた風変わりなひとりの貧しい娘カトリが、ある企みをめぐらす。お金の計算が得意で数字に敏感。ひどく無愛想だが、人の欺瞞に対して鼻がきく若い女カトリは、人から信頼されるも好かれていない。そんなカトリが誠実な企みのもと、兎屋敷に入り込む。

ある意味まったく正反対の二人の女性が近づくことによって、お互いに歪みが生まれてくる。人を疑わなかったアンナは、カトリに騙されていると指摘され、人を疑うことを知り、だんだんと混乱していく。一方、金の取引に厳格すぎるカトリは、アンナの曖昧さが許せない。いわば経済合理性をあらゆることに優先する存在。人に気に入られるための些細な嘘や虚飾も認めない。だから彼女はいつも「正しい」。しかし、その「正しさ=誠実さ」が、人と人との関係を壊していく。

カトリの弟マッツは、近所では「少し頭が足りない」と思われているが、やることは堅実で信頼できる。人間関係は築けないが、不器用な職人のようにヨットの設計を粘り強く進める。アンナがカトリの存在に影響されて不安に怯えていくのに対して、マッツは姉のカトリとも距離をとりつつ、自分の世界を守り続ける。

アンナもカトリもマッツに対しては親愛の情を示し、彼を喜ばせようとするのが面白い。マッツを中心に、二人の正反対の性格の女性が磁石のように影響を及ぼしあい、磁極が狂い、混乱する物語でもある。

さらに面白い存在がカトリの従順な犬だ。カトリは犬に名前をつけない。そこには信頼や愛はない。命令と服従という主従関係だけだ。カトリは、信頼や愛という曖昧なものに左右されるのではなく、数字やお金をいうような確実なものだけを信じる生き方を選ぶ。それは名前のない犬との関係に象徴されている。そのシステムにしたがって生きることが、彼女はラクだと思うのだ。曖昧な愛に裏切られたり騙されたりすることがないように。その犬にアンナが、別の命令をする。棒切れを取ってくることを気まぐれに要求することで、犬は命令に混乱し、主従関係を放棄して、オオカミのように森に住む野性と化してしまう。アンナの気まぐれで無責任な行為が、世界の秩序に混乱をもたらすのだ。

この物語にハッキリした結末もハッピーエンドもない。マッツのヨットは完成するが、三人にはヨロコビはない。二人の女性の混乱と乖離が示されるだけだ。フィンランドの閉ざされた雪の閉ざされた兎屋敷の中で、人と人との関係がいかに厄介で難しいものであるかをあらためて思い知らされる。

(せ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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