「ヘルタースケルター」蜷川実花

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岡崎京子の原作を読んでいたので気になって観に行った。映画館は若い女の子がいっぱい来ていた。沢尻エリカが主演したことでも話題になっているので、彼女が高度資本主義消費社会の哀しきアダ花「りりこ」をどう演じたのかも興味があった。感想としては、蜷川実花らしい極彩色の人工的な騒がしい映画になっている。沢尻エリカも体当たりで過激なセックスシーンも演じているし、美術は素晴らしい。ただ、音楽はやたらと大袈裟だ。

岡崎京子の『ヘルタースケルター』は、2003年に出版され、文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞、翌年に第8回手塚治虫文化賞・マンガ大賞を受賞している。しかし彼女はこの作品の連載を終えた直後の1996年5月に交通事故に遭い、現在までリハビリ中で執筆活動をしていない。その才能を惜しんで多くのファンが復活を待望している。ちなみにこの映画を岡崎京子は試写会で観て、「新しい作品が描けない今、自分の作品に新たな命が吹き込まれる事に興味がある」などと、事故後に初コメントを出したということだ。『pink』 『ジオラマボーイ パノラマガール』『リバーズ・エッジ』など、素晴らしい作品も多く、なぜか僕も彼女のマンガは数冊持っている。

原作が書かれた時代から時間が経過した。まだ日本がバブル経済の余韻を引きずりつつ、経済成長が信じられていて、消費活動が盛んだった頃、夢が次々と生まれては消費されていた時代の申し子として「りりこ」は生まれた。「目と爪と耳とアソコ以外すべてを全身整形手術しているモデル」である「りりこ」。そんな人造人間のような完璧な美しさを持つ「りりこ」がトップスターの座から転げ堕ちる物語だ。肉体が崩れ、心が壊れていくプロセス。過酷なまでに早い消費スピードや喧騒ぶり、そんな狂騒のなかで心が空っぽになっていく虚無感。果実が腐るように、過剰さの果ての孤独な地獄が描かれている。それが原作の面白さであり、この映画の見どころだ。

蜷川実花は写真家としてお得意の極彩色の衣装や美術セットで、沢尻エリカを人工的な美しさで飾り立てる。赤い部屋とくちびると赤い下着。沢尻エリカという女優の現実の不安定さと役としての「りりこ」の不安定さがシンクロしている。だからキャスティングはズバリはまったと思う。脇には、桃井かおり、寺島しのぶという芸達者を配置し、いつも不気味な暴力男を演じている新井浩文がオカマのメイクというのも意表をついていた。さらにりりこを脅かす新人モデルに水原希子。原田美枝子が、禁断の移植医療を施す美容整形外科医というのも巧い。大森南朋には、りりこに感応しつつ、美容整形外科医を告発する検事役を与え、りりこを別の角度から見ている。

映画の前半は特にスピード感があり、快調だ。しかし、だんだん同じトーンに飽きてくる。物足りないのだ。極彩色の人工美の華麗さと対極のりりこの虚無が観ている側に響いてこない。原作の地獄絵が見えてこないのだ。それはなぜだろう?たぶん、最後までりりこが人工的な美しさのままだからなのかもしれない。これは果実が腐るように人工美が朽ち果てる物語のはずだ。強烈な臭いを放つように、完璧な美しさが歪められ、崩れ、腐臭を放たなければならない。ラストの記者会見で自らの美しさを破綻させたシーンは、もっと生々しくなければいけないのではなかったか。商品としての記号、身体性を奪われた人工的な身体、抽象的な美が、朽ち果てながら腐りかけた本物の身体を取り戻すべき物語ではなかったのか?なのに、記者会見でのりりこの最後は、やはり抽象的な真っ赤な幻想美であった。血はどこまでも、ニセモノの血だった。そして、生きのびたりりこのいる秘密倶楽部もまた、もっと怪しげで生々しくあるべきなのだ。蜷川実花の華麗なる人工的極彩色的世界が、最後までそのままだった。怪しげな小人は出ているものの、どこか抽象的なのだ。薬物中毒者の幻想と同じなのだ。

震災以降、過剰な消費社会から大きく転換しつつある今、この映画の空気は少し時代とかけ離れている。それでも、僕らはりりこの哀しき身体性には共感はできるはずだ。過ぎ去る時間への抵抗。若さと美しさへの執着。果てしない報われぬ欲望。それらが響いてこなかった。最後まで過剰なる人工的な美しさしか感じられなかった。残念である。

さてさて、岡崎京子のこの時代を経た毒薬は、今の若い女の子たちにどう届いたのだろうか?毒は毒として届いたのか?それとも観ているのもシンドくて、共感できない「はぁ?」だったのか?ちょっと聞いてみたい。


製作年 2012年
製作国 日本
配給 アスミック・エース
上映時間 127分
監督 蜷川実花
製作 和崎信哉、豊島雅郎
プロデューサー 宇田充、甘木モリオ
原作 岡崎京子
キャスト:沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏、寺島進、哀川翔、窪塚洋介、原田美枝子、桃井かおり

☆☆☆3
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