「グスコーブドリの伝記」 杉井ギサブロー

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宮沢賢治の世界を自由に幻想的に映像化した作品。その美しき映像的世界を観ているだけでもなかなか楽しい。ますむらひろしのキャラクターデザインの猫で、『銀河鉄道の夜』をアニメ化したスタッフだ。このアニメ『銀河鉄道の夜』はとても素晴らしい作品で、僕は大好きなのだ。音楽を担当した細野晴臣の音楽もとにかくいい。そして
この作品も、最後の小田和正のエンディング・テーマは別にしても、小松亮太氏のバンドネオンはなかなかいい。

実は、私のペンネーム「ヒデヨシ」は、漫画家ますむらひろし氏の『アタゴオル・シリーズ』のデブ猫ヒデヨシに由来している。不思議な森に住むデブ猫ヒデヨシ。大好物の紅マグロにいつも夢中で、食欲の赴くままに盗みを働き、友人をも平気で裏切るけれども憎めない…、脳天気でお調子者で、好奇心旺盛で生命力に溢れているヒデヨシに私は憧れているのだ。この映画の中でも「赤ヒゲ」がヒデヨシ的キャラクターとして登場する。飢饉で損をした分を肥やしをたくさん入れて取り戻そうとする欲望いっぱいの山師だ。

もともとますむらひろし氏は、この『グスコーブドリの伝記』を漫画化している(1983年)。この映画を見た後に改めて読んでみたけれど、映画は漫画とも少し変えられている。妹のネリのエピソードの後日談などは削られている。原作もまた何度も改稿を加えられているそうだ。より幻想性が強い『ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記』から、『グスコンブドリの伝記』、そして『グスコーブドリの伝記』へと。 杉井ギサブロー氏は、それぞれの要素を映画に詰め込んだと語っている。なかでもブドリが夢を見る妖怪だらけの街や、てぐす糸を作る場面の森の幻想性、宮崎駿もビックリのクーボー大博士が乗る人力飛行船が飛び交うSF的な街など、映像がとにかく楽しい。原作の世界の幻想的美しさがより強調されている。

もともと宮沢賢治には、どうとでもとれるような幻想性、抽象性や遊びが多い。この作品は、賢治作品のなかでも社会的なメッセージの側面が強いが、映画では物語の骨格のみを残し、より自由に映像化している感じがする。

なんといっても東日本大震災を受けて、自然と人間の厳しい対峙が意識されたからこそ、このアニメが作られたのだろう。作品としてはとてもチャレンジだなぁと思う。分かりずらい抽象性・幻想性がいっぱいあることが、今の時代にどれだけ受け入れられるのか、ちょっと疑問もある。でもこの幻想性こそ、多くの子供たちに観てほしい作品である。

ブドリは、過酷な自然で家族が奪われ、喪失感の中で生きていく。それは震災後の東北のようでもある。そして、自然の中で生きること、食べること、農業の厳しさが描かれ、その自然と人間の共存を科学の力でブドリは何とかしようとする。ある意味、科学の力とは現代で言えば「原発」ではないか。ブドリは「イーハトーブ火山局」で、火山の力、地熱、炭酸ガスなどを使って、異常気象と飢饉から人々を救おうとする。そこでは「自然への敬意」をしっかり払いながら、科学への希望が描かれている。そして、「みんなの幸せのために」生きる賢治のテーマが描かれる。科学とはなんのためにあるのか?自然を知り、研究することは、どういうことなのか?人間に幸せをもたらすはずだった科学の力である「原発」の意味をあらためて考えさせられる。

しかし、何度も言うがそんなテーマ性より、このアニメの映像の幻想美にまず酔いしれてほしい。ここには自然そのものから感じる幻想的な美しさと自然と人間のやさしい調和があるのだ。戸惑うブドリを急がせ、駆り立て、追い込むオヤジたちが何人か登場するが、生きることは、そういう効率よりも大切なことがあるということを子供たちには感じてほしい。


製作年 2012年
製作国 日本
配給 ワーナー・ブラザース映画
上映時間 108分
監督 杉井ギサブロー
原作 宮沢賢治
監修 天沢退二郎
脚本 杉井ギサブロー
絵コンテ 杉井ギサブロー
キャラクター原案 ますむらひろし
作画監督 江口摩吏介
音楽 小松亮太
主題歌 小田和正
声の出演:小栗旬、忽那汐里、草刈民代、柄本明、佐々木蔵之介

☆☆☆☆4
(ク)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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