「瓦礫の中から言葉を わたしの死者へ」辺見庸

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3.11後の言葉についての深い洞察である。震災後に連日語られたものは、乾いたデータであり、死者の数、行方不明者の数、原発から出ていた放射線量の数値でしかなかった。それらがおびただしい屍体をかき消した。死はそれぞれの重み、厚み、深み、リアリティを奪われ、風景は漂白され、除染され除菌され、消臭された…と辺見庸は書く。

そして、「個人」は「国民」へ、「私」は「われわれ」へと、いつの間にか統合されていた。その個を不自由にしているのは、国家やその権力ではなく、「われわれ」が無意識に「私」を統制していたのだ、と。

テレビのニュース映像は「死を消した」。屍体を映さないことは、人の心を救っているのか?地獄の風景を正視してこそ、死者への敬意と悼みにつながるのではないかと彼は疑問を投げかける。

「知らず、生まれ死ぬる人、何方より来りて、何方へか去る」(『方丈記』)の心象は、現代にも通じる。「ありえないことはない」のだ。それはひょっとしたら「宇宙のくしゃみ」だったのかもしれない。

そして、震災後CMを自主規制した民放各局が「ACジャパン」のCMを繰り返し流し続けたことに、権力側からの抑圧ではなく、自主的な規制があったことを問題視する。「ごめんね」「思いやり」「なかま」「絆」「がんばれ」というクリシュ(常套句)が繰り返され、紋切型、説諭調の言説ばかりが常態化した。表現のダイナミズムが失われ、「集団的過剰抑制行動」とでも言える全体主義の一形態を現れた。パニックや暴発行動を自己制御しようとする無意識のメカニズム。それは日本古来の「忌」の情念と関係があるのではないか…。

一方で、原爆の光景を具象的に描いた原民喜の小説『夏の花』やナチのジェノサイドへの石原吉郎の詩、関東大震災について語った折口信夫の詩や川端康成の文章などを引き合いに出しながら、おびただしい屍が広がる世界を「全体」ではなく、「ひとりひとりの単独者の死」について、どこまで語れるかを辺見は考え続ける。そこには、「奈落のなかの爽快感」があったり、「根源的な無責任さ」や、「ふとどきで不謹慎な明るさ」があると言う。表現の規制などなく、閉じた感傷やヒロイズムもない。絆とか国難とか元気、勇気、やさしさなどという説教もない。虚無感の果てのダイナミズムがあるのだ、と。

人間は他者の死や不幸に、じつは、何ら責任はとれないのだ・・・津波に呑み込まれ倒壊した建物の下敷きになった人の顔を思い浮かべて「人間存在というものの根源的な無責任さ」を考えること。堀田善衛の『方丈記私記』のように。

辺見庸は、瓦礫の中から、そんな私にとってのひとりひとりの「死者」を考え続ける。言葉と言葉の間にはカダヴル(屍)があるのだ、と。
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