「きっと ここが帰る場所」パオロ・ソレンティーノ

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「何か変だ」。落ちぶれた元ロック・スターであるシャイアン(ショーン・ペン)が何度か口にする言葉だが、まさにこの映画は「何か変」な映画である。

まずなんといってもシャイアンが変である。いつでもメイクをしながらボソボソとしゃべる奇妙な男。なぜかいつでもカートをズルズルと引きずっている。空っぽの豪邸に住み、プールの水も空っぽ。キッチンと書かれたキッチン、怪我をしているのかエリザベスカラーしている愛犬。それらすべての意味を彼は知らない。そして妻ジェーン(フランシス・マクドーマンド)はなぜか消防士。彼女がビルの上で働いている姿をボーと見上げたりする。空っぽのプールで妻と素手でするスカッシュもまた奇妙だけれど。妻にわざと勝たせてもらっていることも知らない。

そして関係もまたわかりづらい。近所に住むロック少女メアリー(イヴ・ヒューストン U2ボーノの娘らしい)とはどういう関係なのか?ショッピングモールで一緒に過ごす似たモノ親子?に見えたりもする。メアリーに言い寄る男との仲を取り持とうとしたり、その行動もまた意味不明。そして、彼女の兄はどうやら失踪中らしい。メアリーの母は、その息子の帰りをタバコを吸いながら悲しみにくれて待ち続けている。

さらに、「暗い若者たちに向けて暗い歌」ばかり歌っていたロックスターは、彼の歌の影響で自殺した兄弟への罪悪感を持ち続け、その親に「もう来るな」と反対されながらも墓参りに行っている。

そんな風にフラフラと空っぽで鬱のように過ごしていたシャイアンのもとへ、父危篤の知らせが来る。飛行機が嫌いなシャイアンは船でダブリンからカルフォルニアへ行くも、父の死には間に合わない。30年ぶりの父との再会は、死後と対面と残された父の日記。そして父がホロコーストに収容されていたことを知り、ナチ親衛隊の男への復讐を考えていたことを知る。そして、物語はまた「変な」展開となり、そのナチ残党の男を探すになる。

アメリカの大陸をずるずるとカートを引きずりながら、父の遺志を継ぎナチの残党を探すロードムービー。なんともよくわからない。そう、彼自身もなぜその男を探すのかさえよくわからないだ。そして見えてくるのは、父との関係。父に嫌われていると思っていた過去。

それが追うナチ男の孫娘レイチェル(ケリー・コンドン)という女性とその息子との出会いを通じて、自らの父との関係に気づく。「息子を嫌う父親などいるはずがないじゃないか!」と。シャイアンがギターを弾き、息子が“This Must Be The Place”を歌う場面に母レイチェルも涙する。そばには息子の不在の父親の写真が飾られている。ダブリンの豪邸で空っぽだったプールは、この親子のもとで水が満たされる。水が怖かった息子も、プールで母と一緒に泳ぐ。

<以下、ラストのネタばれに触れています。観てから読むことをお勧めします>

父の思いを継ぐに出たシャイアンは、父との確執を乗り越え、なぜか、飛行機嫌いだったのに飛行機でダブリンに戻ってくる。いわば父との確執を抱えていたシャイアンの子供(ひきこもり大人)から大人への成長物語というわけだ。そして吸わなかったタバコを吸い、メアリーの母のもとへ「あの姿」で戻ってくるのだ。意表を突かれるラストだ。ここが「帰る場所」なのか?メアリーの母は失踪した息子を待ち続けていた。彼は彼女を喜ばせるために息子を演じたのか?それともメアリーの母とはもっと別の関係(元妻とか、母とか)なのか?観客はその謎を想像するだけである。

いずれにせよ親子の物語である。親との関係を巡るである。自殺したり、失踪したり、嫌われていると思って仲たがいしたり、親子の関係はいつだってこじれる。不在としての子供や親の存在をそれぞれが抱えつつ、人は生きている。そんな単純な親子の物語に回収されないように、映画はあちこちで「変な」衣装をまとっている。

ゆっくりした移動撮影やロングショットの美しさと顔のクローズアップ。犬やプールや車の炎上、突如車の助手席に乗っていた男やカートの車を発明した元パイロットに卓球、そして男が住むプレハブが立つ雪原と赤い車の美しき構図。なんとも奇妙な映像感覚と独特の演出力。イタリア監督のアメリカの映画や音楽へのオマージュも感じる。パオロ・ソレンティーノ監督の今後の作品も気になるところだ。トーキング・ヘッズの白髪のデビット・バーンが懐かしい。

誰にでもおススメする映画ではありません。奇妙な映画が気になる方は、その奇妙さを楽しめるでしょう。

原題 This Must Be the Place
製作年 2011年
製作国 イタリア・フランス・アイルランド合作
配給 スターサンズ
上映時間 118分

監督:パオロ・ソレンティーノ
脚本:パオロ・ソレンティーノウンベルト・コンタレッロ
撮影:ルカ・ビガッツィ
美術:ステファニア・セラ
衣装:カレン・パッチ
編集:クリスティアーノ・トラバリオッリ
音楽:デビッド・バーン、ウィル・オールダムキャスト
キャスト:ショーン・ペン、フランシス・マクドーマンド、ジャド・ハーシュ、イブ・ヒューソン、ケリー・コンドン

☆☆☆☆4
(キ)
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