「エイリアン」リドリー・スコット

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『プロメテウス』を観て、その前日譚とも言われている『エイリアン』を見た。1979年、リドリー・スコットの名を一躍有名にしたSF映画の傑作を言われている作品だ。確かに、金をかけた『プロメテウス』よりもよっぽど密度が濃くサスペンスフルな映画になっている。膨大なお金をかけてセットなど作らなくても、十分にSF的スケールと異星人との緊張感のある対峙、そして宇宙での人間の孤独が描かれている。そして『プロメテウス』は、『エイリアン』と全く同じことを繰り返しているのだということが分かる。人間を裏切るアンドロイドの存在、首が切断されても喋り続けるアンドロイド、宇宙船という密室での人間関係の葛藤、冷凍睡眠、エイリアンの人間への寄生と胎内での成長などなど。

『エイリアン』は宇宙船内で起きる人間とアンドロイドとエイリアンとが格闘する密室劇として成功しているのに比べ、『プロメテウス』は人類の起源をめぐる物語や到着した星での探索やエンジニアなる宇宙人の物語、そしてキリスト教的宗教観など色々盛り込んだために散漫になった印象だ。

さて、それでも『エイリアン』という映画はとても奇妙なところがある。映画の最終部分、ノストロモ号をなんとか爆発させ、脱出に成功した航海士リプリー(シガーニー・ウィーバー)は、ホッとしつつ、冷凍睡眠状態になるために服を脱ぎ下着姿になる。こんな場面で観客サービスのセクシーショットか?と驚きながら見ていると、脱出した船内にもエイリアンが潜んでいたことが分かり、リプリーは白い宇宙服を身につけ、エイリアンとの最後の格闘となる。なぜ彼女を下着姿にする必要があったのか?それは、リプリーとエイリアンの対峙こそは、女性の性と男性の欲望との対決でもあるからだ。

この映画が「男性の攻撃的な性的欲望と戦う自立した女性」の物語であり、性的隠喩に満ちた傑作だと指摘したのは内田樹(『映画の構造分析』内田樹著)だ。この内田本を読んだ時、そのあまりのフロイト的な強引な解釈に、いささか唖然としたものだ。このSF映画は、そんな映画だったのだろうか、と。映画の解釈とは多様なもので面白い。だが、あらためてこの映画を見てみると、確かに性的な表現に満ちている場面が数多くある。

アンドロイドだった科学者アッシュのリプリーへの暴力シーンがとにかく異様だ。性的ピンナップが壁に貼られている船内で、アッシュはリプリーの口のに雑誌を丸めて押し込もうとする。不思議な暴力の形だ。明らかに性的行為を連想させる暴力だ。アッシュはアンドロイドであり、男性性器を持たない存在だ。だからこそ、男同然に気丈に振る舞うリプリーへ性的制裁をしたのか。アッシュが地球外生物を持ち還る特命を受けていたことが分かった後に、コンピューター室から出てきたアッシュは白い汗を流し、リプリーは鼻血をなぜか流していた。そして、リプリーへのレイプの後に、アッシュは首がもぎ取られ、白い液体を流し続ける。これは精液そのもののようだ。また「酸素の冷却材」や宇宙船の自爆装置の金属棒の上下動も男性性器を連想させる。さらにエイリアンそのものが、人間の体内(胎内)に寄生し、腹を突き破って出てくるという逸話は、明らかに女性の妊娠ー出産の暗喩である。内田樹氏は、中世から各地の民話で伝わる「胎内の蛇」という怪奇譚との類似性を指摘し、「母になること」の女性の恐怖や不安と嫌悪、そして男性性器を蛇と見なし、「蛇の子を宿す」物語にすることで、そういった出産への恐怖の心理を抑圧してきたのだと指摘している。

これは『プロメテウス』でも再び繰り返される。到着した惑星で乗組員たちが襲われる異様な生物は、蛇のようであり、まさに男性性器の形をしていた。その蛇は口の中に侵入していた。そしてその生物は、性交を通じてヒロインのエリザベス·ショウ(ノオミ・ラパス)の胎内に宿る。映画の中で、ショウは自らの胎内に宿したエイリアンの子を取り出して堕胎する。まさにエイリアンにレイプされて宿した子を殺すのだ。女性であること=母になることを自ら否定し、勇敢なる戦士として戦い続けるのだ。

『エイリアン』のヒロイン・リプリ―(シガーニー・ウィーバー)も『プロメテウス』のショウ(ノオミ・ラパス)も、同様に女性的「性」を否定しつつ、男性の性的欲望(エイリアンやアンドロイド)と勇敢に戦う強い女だ。『プロメテウス』のショウは、女性として男性に恋愛感情を抱き、性交までするのに、そのことで試練を受けることになる。それでも自らの胎内を処置するヒロインぶりは圧倒的であり、『エリイアン』で生き抜いたヒロインと同様に、『プロメテウス』でも女性が人類を救う存在となる。

男性の性的暴力とそれに対峙する女性の強さが、どちらの映画でも描かれているが、もちろんこの解釈が映画のすべてではない。あくまでも、こういう見方も可能だということに過ぎない。

『プロメテウス』レビュー


原題:Alien
製作年:1979年
製作国:アメリカ
配給:20世紀フォックス映画
上映時間:116分
監督 リドリー・スコット
製作 ゴードン・キャロル デビッド・ガイラー ウォルター・ヒル
原作 ロナルド・シャセット
キャスト:シガーニー・ウィーバー、ベロニカ・カートライト、トム・スケリット、イアン・ホルム、ハリー・ディーン・スタントン


☆☆☆☆4
(エ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : SF ☆☆☆☆4

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no

 そうです

non

 シガニー自身は、撮影後に
「見せすぎた。」と泣いて悔やんでるはず。
hu、hu、hu....

No title

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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