「市川崑物語」岩井俊二

岩井俊二がリスペクトを込めて市川崑の映画人生をまとめたドキュメンタリー。特異なのは、ナレーションも本人インタビューも一切ないことだ。市川崑は2008年92歳で亡くなったが、この映画の製作当時はリメイク版『犬神家の一族』公開時の現役監督だった。いくらでもインタビュー取材はできたろうし、仕事風景も取材できたはずだ。しかし、一切本人が動いている映像はない。加工した写真と映画素材と字幕のみで構成しているのだ。まるで無声映画のように。そこには岩井俊二自らが最も影響を受けたと字幕で明かしているように、市川崑への熱い思いが込められている。「市川崑は僕のオリジナルです。」と。
特に市川監督の生涯のパートナー、妻であり脚本家でもあった和田夏十(なっと)さんとのエピソードが興味深かった。女系家族で育った「お坊ちゃま気質」の市川崑と、キャリアウーマンで頭脳明晰な女、和田夏十との抜群の相性が市川監督の映画世界を支えていたというのがよくわかる。1950年代から60年代にかけての市川崑の作品群には圧倒させられる。彼の原点がアニメだったというのも興味深い。まさに職人監督である。
さらに映画の斜陽とともに、テレビで時代劇『木枯らし紋次郎』やテレビCMなども手掛けるようになるが、角川映画の『犬神家の一族』で市川崑監督は再び脚光を浴びる。斬新なタイトルクレジットの文字デザインに岩井俊二も驚いたという。
カッティングの独特のリズムと編集のテンポ。さらに顔のクローズアップなど女性を撮るのがうまいとも言われた市川崑の映像世界。個人的には市川映画では『股旅』と『黒い十人の女』が好きです。
製作年 2006年
製作国 日本
配給 ザナドゥー
監督・脚本・編集・音楽:岩井俊二
プロデューサー:一瀬隆重
キャスト:市川崑、和田夏十
☆☆☆3
(イ)
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