「ハリーの災難」アルフレッド・ヒッチコック

harry1.jpg

ヒッチコック作品の中でもとりわけとぼけた異色作。なんてったって死体が森に転がっているのに、ちっともサスペンスにならず怖くないのだ。なんだかイギリスの美しい秋の田舎町の風景そのもののように、のんびりとのどかでユーモラスなのだ。

紅葉の森がとにかく美しい。そこに玩具の水鉄砲を持って現れる少年。そして猟銃の音。少年は森に横たわった死体を見つける。さらに猟銃を撃った男がウサギではなく、死体を発見して、自分が誤って撃ってしまったと思い込む。まず、そのことに男はあまりうろたえない。なんだか「あぁ、なんてこった」という感じなのだ。そこへ次々と現れる村の人々。死体を発見してもちっとも驚かず平然としているのがとても奇妙なのだ。やがて、その驚かなかった奇妙さが、だんだんわかってくるのだが…。

何度も土の中に埋められ、掘り返される死体。その行為の滑稽さだけを描きたかったようだ。靴底から横たわる死体を撮るアングルは、人間ではなくモノでしかない。そこには殺された男の悲しみも無念さも何もない。ただ横たわる死体があるだけだ。顔の表情は、画家である男のスケッチでわずかに描かれる程度だ。描かれるのは、その死体をどう処理しようかと悩む2組の男女の心理だけ。死は深刻なものではなく、仕方のないものとして軽く扱われる。間違ってしまった運命というように。それどころか、死よりも、死体を処理しながら生まれる男女の恋やプロポーズが描かれる。何とものどかでユーモラスなのだ。死体を何度も埋めて掘り返し、そして埋めるという仕掛けそのものにこだわった気がする。心理描写よりも、その仕掛けこそがヒッチコックが描きたかったことだろう。

ワイルス船長が世界の海をまたにかけて冒険を繰り広げた海の男ではなく、ただの川の引き舟の船長だったり、年増の婦人の寂しさをさりげなく描いていたり、画家の絵が金持ちの男に売れた場面で、お金ではなく村人たちにささやかなプレゼントをする場面など、村人たちの人間描写はあたたかく微笑ましい。保安官代理の車や死体のスケッチや浮浪者が盗んだ靴、さらに何もしないのに何度も開く扉など、細かい演出もさすがと言える。ただ死体であるハリーの元妻のジェニファー(シャーリー・マクレーン)の心理描写はやや強引な感じがした。いくらなんでも、元夫であるハリーのことにそれほど無頓着でいられるものだろうかか?しかし、シャーリー・マクレーンはキュートで可愛いかった。

いずれにせよ、死を前にした滑稽な人間ドラマを、遊び心のあるユニークな演出で描いたヒッチコックの異色作だ。

原題 The Trouble with Harry
製作年 1955年
製作国 アメリカ
配給 パラマウント
製作:アルフレッド・ヒッチコック
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚色:ジョン・マイケル・ヘイズ
原作:ジャック・トレヴァー・ストーリー
撮影:ロバート・バークス
作曲:バーナード・ハーマン
歌:マック・デイヴィッド、レイモンド・スコット
SFX/VFX/特撮:ジョン・P・フルトン
美術:ハル・ペレイラ、ジョン・B・グッドマン
編集:アルマ・マックローリーキャスト
キャスト:エドモンド・グウェン、ジョン・フォーサイス、シャーリー・マクレーン、ミルドレッド・ナットウィック、ミルドレッド・ダンノック、ジェリー・マシューズ、ロイヤル・ダノ、バリー・マッカラム

☆☆☆☆4
(ハ)
スポンサーサイト

テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : サスペンス ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
203位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
93位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター