「軽蔑」 中上健次

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中上健次『千年の愉楽』に続いて読んだのが、これまた映画化された『軽蔑』。映画は未見だが、わりと読みやすい風俗恋愛小説だ。

新宿歌舞伎町のトップレスバーの踊り子真知子と、地方の旧家の一人息子で遊び人のカズさんの恋物語。真知子の目を通して語られるカズさんは、伊達男で気風がいいが、ただの甘えた遊び人でしかない。ちっとも魅力的ではない。この小説はどちらかというと血が塗り込められた風土=「路上」との呪縛に憤死する男の物語というよりも、そんな男たちを見てきた哀しい女性の物語なのかもしれない。

文庫本の解説で四方田犬彦は、この『軽蔑』は中上健次の「他の作品とどれも似ていない隔絶したものである」と書いていて、「『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』の「秋幸」の連作とも、『千年の愉楽』『熊野集』『日輪の翼』『讃歌』へと発展してゆく「路地」の解体と離散のサガとも完全に切り離された場所」で書かれていて、「『蛇淫』『鳳仙花』へと至る「女たちの系譜」、ある特定の場所に到来し、偶然の織り成すままに生き延びてゆく女たちの波乱万丈を描いている」と指摘している。「悲劇、宿命、死という男たちの物語」とは対極の「メロドラマ、偶然、生」という女たちの系譜」の物語なのだと。となれば次は『鳳仙花』を読んでみなければなるまい。

「相思相愛、男と女は、五分と五分」と何度も呪文のようにその願いを繰り返す真知子は、都市生活者であり、その「五分と五分」でいたいという真知子の思いは「都市」という孤独な場所でしか成立しなかった。カズさんの故郷である土地では、親子や昔の仲間やカズさんに思いを寄せる人々などの因果な関係が複雑に絡み合っており、真知子とカズさんは「五分と五分」にはなれないのだ。都市と田舎を行き来する真知子のこの物語は、その空気の違いを描いている。「花」が象徴的に何度も真知子の目を通して描かれる。「花」とはその土地に結びついたものでありながら、土地から切り離されても美しく咲き誇っていられもする。そんな「花」に真知子は自らを仮託する。

しかし、関係のしがらみの田舎で真知子は息苦しくなって、カズさんとの「死」を選びたくなるほどに行き詰まる。それでも真知子は生きていくために、他の男と関係を持ち、新たな商売を始めようとさえするのだ。それはまるで、男が土地のしがらみから抜け切れないのに比べて、女はどこまでも自由であるかのようだ。山畑というカズに金を貸して滅ぼした張本人の男が出てくるが、真知子はそんな山畑とも関係を持つ。それは他者との関係こそがすべてである女という存在そのものである。義理やプライドや仲間や親子という関係の呪縛から自由になろうとしてもなれない男・カズは、その呪縛の中で自滅していくしかない。男は関係の呪縛から幻想で自由になろうともがいている存在であり、一方、女は関係そのものを自分としながら、軽やかに敵も味方も飛び越えてしまう存在なのだ。その男と女の違いが際立っている小説でもある。

そして男はこの世とあの世の間を彷徨う幻想の亡霊になるしかないのだ。

(け)

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