「小田嶋隆のコラム道」小田嶋隆

コラムニスト小田嶋隆のコラムの書き方についての本。といってもそんなに真面目なハウツー本ではない。決められた枠組み・字数の中で、いかに独自の目線から文章が書けるかがコラムの勝負どころ。つまり、あっちからもこっちからも上からも下からも斜めからも裏側からも、考える訓練をしておかなければコラムなど書けないという話だ。

小田嶋氏は日常でいろんな場面で気になったことをメモにするのだという。ただ、そのメモはほとんどコラムには役立たない。ほとんどのメモがあとで読むとくだらないのだ。だけど、いつかそのメモは熟成・発酵することもあるらしい。何年か後に形を変えて日の目を見たりするらしい。

そして枠組みや締切や字数が書くことを導く。書きたいことがあって書くよりも、そういった外部的要請が書くことを動機付ける。だから書く人は、自ら毎日書くことを習慣づけた方がいいらしい。書きたいことが出てくるまで書かないでいると、ずーっと書けなくなる。書いているうちに書くことが湧いてくるという考えも、なるほどなと思った。

日本語が主語を省く言語だという話も興味深かった。「やまとことば」は「主語を明示することをはばかる感覚」があるのだという。「主語をあけすけに書くこと自体を、破廉恥な態度だ」と感じていたらしい。だから「源氏物語」は発言や動作の主体が誰であるのか、文脈や前後関係や、使用されている助詞から、その都度、類推しながら読むことになる。「悪文だ」という人もいるが、日本語自体に、主語を避ける文化があるという。短歌や俳句はもちろん、詩においても。「省略だらけの文脈から主語を類推し、関係を把握し、空気を読み、余白を想像力で埋めることで書き手の意図を読み取る能力」が日本人にはあるのだ。「あからさまに表現することを一貫して軽蔑してきた」日本人の文化は、良くも悪くも西欧的個人主義とは全く違うのだ。

さらに新聞記事も、主語は明示しない。「野田政権の不支持が広がっている」だの「被災地は困難に直面している」だの「なりゆきが注目される」だの。新聞における主語は、事件や取材対象や「われわれ一般」なのだ。「私は被災地を取材した」とは書かない。多くの社説でも文責は、記者個人ではなく、新聞社に帰するのだ。署名入りの論説が少し出てきたが、ほとんどの記事は無記名だ。欺瞞と言えば欺瞞だが、そういう文体によって、新聞の「客観性」が担保されるというわけだ。

しかし、コラムは主語なしでは成立しないのだという。なるほど。そういう違いがあるのですね。キレのあるユニークなコラムは、したり顔の「客観性」のある言説よりも、面白いのはそういうわけなのですね。


(お)
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