「演劇1&2」想田和弘

cs_pic1.jpg 平田オリザ
cs_pic2.jpg 青年団
cs_pic3.jpg 想田和弘

演劇人・平田オリザの密着ドキュメンタリーである。『演劇1』は、おもに平田オリザが主催する劇団「青年団」の公演に密着し、『演劇2』は平田オリザの幅広い活動全般(政治家との交流、教育現場での演劇ワークショップ、世界初のロボット演劇、フランス公演での国際交流、芸術立国論など)のドキュメンタリーだ。

「観察映画」と想田和弘監督が自ら呼んでいるように、ひたすた平田オリザをカメラは追い続ける。そこにはナレーションも音楽も字幕もない。それは想田監督の意地でもあるかのように頑なだ。人物の名前さえ字幕スーパーすることなく、名札にカメラが寄り、それを読ませることで紹介している。

2作品合わせて5時間42分は確かに長い。ナレーションで説明することもなく、ただただひたすら平田オリザという男を追い続けている。とても長いのだが、この平田オリザという男が興味深いだけに、その時間がちっとも長く感じないのだ。もちろん、少し長い場面もあって飽きてくるところもある(役者たちの舞台設営場面など)。しかし、この映画は想田監督と平田オリザの即興ジャズセッションであり、カメラを無視し続ける平田オリザと何かを探り続けてカメラを向け続ける想田監督との熾烈な戦いでもあるのだ。平田オリザは、カメラを無視し続ける演技をすることで、まさに不自然に振る舞っているのだ。

「本当の自分なんていない」、「人間はそれぞれの場で演じ続けるペルソナがあるだけだ」と語る平田オリザは、自分のことを「僕は心がないからね」と笑う。想田監督は、その「心がない」と言う平田オリザの裏側に何とか迫ろうとカメラを向け続けるのだ。しかし、平田オリザは、どこまでいっても平田オリザでしかない。素顔のようなものさえ見えてこない。想田監督が撮れたのは、芝居の稽古の合間でイビキをかいて寝る平田オリザと、『演劇2』のラストの眠そうに瞼を閉じつつも稽古をつけている顔だけだ。無防備な姿は「眠り」しか撮れなかったのだ。平田オリザはいつでも完璧に平田オリザを演じていた。

そもそも「心とは何か?」「人格とは何か?」と平田オリザは問いかける。心の感情表現としての演技というスタニスラフスキー・システムの否定。平田オリザの演出は、ロボットのように役者に台詞の細かい間合いや出入りの時間やタイミング、動きの演出をつけるだけだ。決して、心理的背景などを語りはしない。「あとちょっと、間合いをあけて」「そこで出てきて、挨拶をして」「その台詞でお尻を掻いて」など、演出は具体的な間合いや動作ばかりだ。感情表現としての身振りや表現の演出など一切しない。役者の心や演技など信じていないかのように。

映画のなかで「青年団」のメンバーたちが、ロベール・ブレッソンの映画『バルタザールどこへ行く』を見る場面がある。ロベール・ブレッソンもまた俳優の演技を余計なものと感じ、素人(モデル)を使って芝居をさせた。役者の心の表現などいらないとでも言うように。小津安二郎もまた俳優のあらゆる演技を抑制させ、ロボットのように統御させたことで有名だ。

私たちは「内面=心」があり、それを身体で表現するのが演技だと信じがちだが、果たして本当だろうか。「内面=心」が身体を操っているのだろうか。私たちが考えている「内面=心」とは何か?ひょっとしたら、身体そのものに心があるのではないか?あるいは、動作や他者との関係の間合いにこそ、心があるのではないか?平田オリザは、ロボットに動きや台詞の間合いを演出することで、ロボットに心があるかのように見せる。身体を操る「内面=心」の存在を疑っているのだ。

だからこそ、身体の動きや間合いにこだわる。その身体的な動作にこそ、表現すべき何か(心のようなもの)があると信じているからだ。だから、教育現場での演劇ワークショップでも、「動き回ることが大事だ」と言う。身体を使って動き、触れ合い、お互いを感じ合うことがコミュニケーションの基本だと思っているからだ。

演劇とは、舞台上で演じられる時空間を、本当にあったかのように客を騙し、その幻想を共有させることだという。そのために、時間や空間を省略し、ないものをあるかのように見せることだ、と。

そして、その幻想の共有は、あらゆる場面で発揮される。『演劇2』で描かれていたように、平田オリザはあらゆる場面で様々な顔を演じ、コミュニケートしている。演出家だけではなく、ギャラの問題や劇団の経営にも気を配る経営者の顔、役者を怒ったり、誕生パーティーを演出する劇団座長としての顔、民主党の政治家に働きかける顔、芸術立国論などを語る顔、地域文化創造のためのコーディネイターの顔、教育現場での演劇の役割を伝える顔、子供たちの先生としての顔、ロボット演劇という新たな表現の可能性を楽しんでいる顔、国際交流と海外の演劇関係者とネゴシエートする顔…。「演劇とは、役者たちを食わせなければならないし、経済とは無縁ではない」と語るリアリストである平田オリザ。そして企画提案者でもあり、プロデューサーであり、劇作家であり、完全主義的演出家でもある平田オリザ。この人物の多様性と魅力に観客は目が離せなくなるのだ。その魅力に憑りつかれ、カメラを回し続けた想田監督が安易な説明などなしに、平田オリザをそのまま提示して見せたその抑制力に脱帽する。

猫と路地と電車と劇団の看板と、そして子供たちや労働者や路上生活者をカメラで捉えたその間合いにこそ、想田監督のささやかな思いが込められている。



「演劇1」2012年/日本・アメリカ/2時間52分/観察映画第3弾
「演劇2」2012年/日本・アメリカ・フランス/2時間50分/観察映画第4弾
監督・製作・撮影・編集/想田和弘
出演:平田オリザ、青年団

☆☆☆☆4
(エ)
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ジャンル : 映画

tag : ドキュメンタリー ☆☆☆☆4

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
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