「お引越し」相米慎二

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久しぶりに見た相米慎二。やはり日本映画界にあって、相米の強引なる荒業こそ才能あふれる作家性であり、その逸脱ぶりこそ映画そのものが持っている強度であるとも言えるのだ。この『お引越し』は、彼の代表作の一つであることは間違いない。

『翔んだカップル』から始まって、運動し続け、躍動する子供たちを長い長いワンシーンワンカットで強引に見せてきた『台風クラブ』や『ションベンライダー』と違って、この映画の長回しはある意味、節度がある。親の離婚問題が起き、母と父の間で揺れ動く子供レンコを演じてる京都弁の田畑智子(映画デビュー)が、この映画でも素晴らしいのだが、それはやはり相米の演出力の賜物である。

冒頭、レンコの逆立ちから始まって、父親の引っ越しの別れのシーンでは寝転がっている父(中井貴一)を蹴飛ばし、ボクシング練習でふざけ合い、そして去っていく父の車を追いかけるまでワンカットで長まわしをしつつ、車からのカメラで、追いかけて走り続けレンコが荷台に飛び乗るアクロバットなシーンまでを撮っている。このレンコの躍動、運動こそが、相米の子どもの演出法だ。走りまわり、動き回り、自転車に乗り、友と坂道を自転車を押し、雨に濡れ、水をかけられ、川や湖に入り、歌を口ずさみ、森を歩かせ、泥だらけになり、眠らせる。とにかく動かすことから読み取れる姿こそが子供たちの言葉なのだ。身体運動こそが、台詞なのだ。だから圧倒的な火まつりを呆然とただ見ているドキュメンタリーのようなレンコの顔が素晴らしい。

そして相米監督が大好きな雨もふんだんに使われている。『魚影の群れ』の夏目雅子の雨のシーンは印象的だし、『台風クラブ』でも風雨が大切な舞台装置だった。この映画でも中井貴一が窓外の雨を眺めるシーンから始まり、突然の土砂降りの雨で子供たちをずぶ濡れにさせている。水は雨以外でも川辺や湖が使われるし、おじいさんに水もかけられる。レンコは濡れることが運命づけられているかのようだ。そして、水と対立する火もまた重要な要素であることは言うまでもない。家族写真は父に焼かれそうになり、レンコは学校でアルコールランプを落として火事にしかけ、京都の大文字焼きの炎や灯篭、琵琶湖での火まつりや松明。美しくもある火は、怒りや諍いのイメージでもある。そしてラストの湖から突然現れる山車が燃える映像は、まさに水と火が溶けあう神話のようである。水に濡れ、火を燃やし、その火と水を感じることが、大人になるための儀式であるかのようだ。

両親の離婚問題から自立への過程を描いたこの家族の物語は、後半大きくそのスケールを逸脱し、少女は森に迷い込み、幻想の火と水の祝祭に立ち合うとになる。その逸脱ぶりは、明らかに度を越している。物語のバランスを欠いているのだ。それがこの映画の不思議な魅力にもなっている。

桜田淳子が好演している。
ラストの湖での過去の自分への祝辞「おめでとうございます!」の叫びは、見事というほかない。


製作年 1993年
製作国 日本
配給 ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト
監督:相米慎二
製作:伊地智啓、安田匡裕
プロデューサー:椋樹弘尚、藤門浩之
原作:ひこ・田中
脚本:奥寺佐渡子、小此木聡
撮影:栗田豊通
音楽:三枝成彰
キャスト:中井貴一、桜田淳子、田畑智子、田中太郎、茂山逸平、須藤真里子、笑福亭鶴瓶

☆☆☆☆☆5
(オ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 家族 ☆☆☆☆☆5

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非公開コメント

相米!

こんばんは。
相米監督作はほとんどリアルタイムでは観ていなくて、昨今のレトロスペクティブが本当にありがたいです。
東京での2週間の相米特集の最終日に私も『お引越し』を劇場鑑賞することができましたが、監督作の中でもかなり好きで、とても素晴らしかったですー。
終盤の幻想的なシークエンスは本当にステキですよね。
ゲストに大人になった田畑さんもいらしてくれて感無量でした。

No title

かえるさん、こんばんは。
相米監督は『台風クラブ』や『ションベンライダー』『魚影の群れ』あたりが有名ですが、この『お引越し』もなかなかすごい映画ですよね。普通の家族映画の域を超えている。その逸脱ぶりは凄いですね。

かえるさんは、いつもいっぱい映画観ていて、ほんとすごいですね。
また遊びにいらしてください。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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