「惑星ソラリス」アンドレイ・タルコフスキー

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タルコフスキーである。久々に観た。デジタルリマスター版で上映されていた。

この映画は、SF映画の体裁をとっているが、人間自身への問いかけの映画だ。人間の存在自体が哀しく苦しい。タルコフスキー映画にいつもつきまとう「人間とはどういう存在なのか?」という問いかけは、時に重苦しく、やや大袈裟になる。その勿体ぶった緩やかなリズムはしばしば観客を眠りに誘う。まるでタルコフスキー映画が夢そのものであるかのように。

「無意識や潜在意識や記憶を物質化する」という惑星ソラリスの海。タルコフスキーにとって「水」とは、母なる命であり、無垢なる記憶であり、人間を包み込むものである。川の底に流れる藻が冒頭に映し出される。美しくたゆたう緑。そして突然の雨にすべてが濡れる。太陽の光があるのに無理やり降らせた人工的な雨。男も机の上の食器も何もかもが濡れる。そして、ソラリスの妖しく不思議な幻想的な海。海に人は操られるかのように、哀しみ苦しむのだ。無意識の海。そして「水」に浄化されるかのように、記憶の彼方から大切なイメージが最後に映し出される。

そして、たびたび出てくる「火」とは何か?少年のころのたき火、宇宙ステーションで宇宙服が焼ける場面、さらに蝋燭の炎。それは「命そのもの」かもしれないし、「水」では消せない何かかもしれない。この「水」と「火」、そして「家」と「犬」はいつもタルコフスキー的世界にとって欠かせない要素だ。

クリス(ドナタス・バイオニス)が自殺した妻ハリー(ナタリア・ボンダルチュク)に出会う宇宙ステーションの中が廃墟のようになっているのが面白い。友人のギバリャン(ソス・サルキシャン)は自殺し、残った学者のスナウト(ユーリー・ヤルヴェト)と、サルトリウス(アナトーリー・ソロニーツィン)は不安気だ。そして船内のモノたちが散乱し、機械も壊れている。とても近未来の宇宙ステーションではないのだ。宇宙に漂い続ける廃墟のような宇宙ステーション。世界の果ての廃墟。そこで見る自分自身の意識の幻想。希望に満ちた未来などない。記憶の悔恨。苦しみと良心。人間は過去に囚われ続ける。意識の呪縛となり、その中で苦しみ続ける。3人の乗組員はみんなバラバラだ。それぞれがそれぞれの苦しみと孤独に格闘し続ける。

この映画で面白いのは、幻想としての妻が悩み始めることだ。一面的な描かれ方ではない。液体酸素で自殺まで図るが蘇生する場面が生々しく不気味で痛々しい。人造人間の哀しみのような死ねない苦しみ。コピーのような誰でもない存在であり、死ぬことすらできない存在。彼女の存在が、逆に死ぬことができる一回性の人間に希望を与えるかのようだ。

「意識や記憶の物質化」とはまさに「映画そのもの」でもある。何度も蘇生し、再生する幻想としての妻は、「映画の夢そのもの」だ。その夢を抱えつつ、その夢の呪縛となり、その夢に苦しみ、その夢を愛し、希望を持ち、人は生きていくしかない。

ラスト、幻影の妻は自ら去り、母親の幻影が現れる。妻と母のイメージの存在が重なる。最後にソラリスの海に出現した島では、実家で父にすがりつく主人公の姿が描かれる。これは、果たし得なかった悔恨か、父への懺悔か、過去の幸福な記憶(両親への愛)にすがるイメージの退行か、はたまた希望か。



惑星ソラリス
原題 Solaris
製作:1972年・ソ連
監督:アンドレイ・タルコフスキー
原作:スタニスワフ・レム
脚本:アンドレイ・タルコフスキー
    フリードリッヒ・ガレンシュテイン
撮影:ワジーム・ユーソフ
音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:ドナタス・バイオニス
    ナタリア・ボンダルチュク
    ウラジスエアフ・ドヴォルジェツキー
    アナトーリー・ソロニーツィン
    ソス・サルキシャン
    ユーリー・ヤルヴェト
    ニコライ・グリニコ

☆☆☆☆☆5
(ワ)

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ジャンル : 映画

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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