「赤い砂漠」ミケランジェロ・アントニオーニ

赤い砂漠

ミケランジェロ・アントニオーニである。かつて学生の頃、アントニオーニの映画を観た時、このけだるい空虚感にしびれたものだ。「の不毛」などと呼ばれ、フェリーニの喧騒とも、ヴィスコンティの華麗さとも違う倦怠。カッコいいなぁと思ったものだ。アントニオーニの空虚感は、僕の中ではヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュのロード・ムービーともつながっている。だから、大好きな監督なのだ。

それで久しぶりに見たこの『赤い砂漠』。昔は訳が分からず、この何も無さに感激したものだが、今見るとかなり作為的で計算された意図的な作品なんだなぁと思う。

冒頭の煙が吐き出される工場と薄暗い曇天のなかを、緑のコートを着たモニカ・ヴィッティが、茶色のコートを着た息子を連れて歩いてくる。コートの色が薄暗い風景で際立つ遠景。労働運動の街宣車。さらに、次々と工場から吐き出される異様な煙。うつろなモニカ・ヴィッティの目線の先にはパンを食べている男。そのパンを「食べかけでいいから」と言って買い取り、水たまりの工場裏でむさぼるように食べるシーン。その異様さで、どこか尋常ではない女であることがわかる。

そう。この映画は美しき不安定なる美女、モニカ・ヴィッティの魅力に尽きる映画だ。うつろな視線と何も起きず費やされる時間の空虚感。漂っているような存在の不安と虚無こそ、この映画のすべてだ。

妻ジュリアーナ(モニカ・ヴィッティ)は、工場を訪ね夫の技師ウーゴ(カルロ・キオネッティ)に会い、友人コラド(リチャード・ハリス)を紹介される。彼女は交通事故にあい、そのショックからノイローゼで、一カ月入院したが、まだ完全に治ってはいないことが知らされる。

夫の友人のコラドは、ジュリアーナが店を出すために借りている部屋を後日訪れる。何もない部屋。何を売るかさえ決めていない空っぽの部屋で「壁の色は何色がいいかしら?」などと話をするジュリアーナ。コラドは、南米に工場を出すために職人探しをしていて、ジュリアーナも同行する。港近くのバラックで、夫や友人たちと合流し、なにやら卑猥なパーティーのような雰囲気になる(上の写真)。赤と白の壁。「なんだか、したくなっちゃった」というモニカ・ヴィッティがやたらとセクシーだ。このシーンだけが全体の中で、際立っている。濃密な空気が部屋を支配する。「寒い」と誰かが言い出し、暖炉の薪にするため小屋の一部をふざけて壊し、板切れを火にくべるコラド。窓を通り過ぎる巨大なタンカー。そして停泊中の船で伝染病が発生したことを知り、外に飛出し、霧の立ち込める港から逃げようとする。船に救急車が向かう。霧の中に佇む人々。突然、ジュリアーナが海に向かって車を暴走させ、堤防の先端で止まる。この巨大なタンカーが港に佇む霧のシーンがいいのだ。まるで、ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・パラダイス』のワンシーンのようだ。

家に帰ると、子供が幼稚園に行きたくないと仮病で「動けない」と言いだし、おろおろするジュリアーナ。動かない手足。子供部屋の玩具のロボットが印象的に使われている。ジュリアーナが子供にせがまれて語り聞かせるお話として「青い海と少女」の物語の映像が挿入される。白い帆船が海に浮かび、少女が泳いでいくと、船には誰もいない。島に戻ってくると不思議な歌声が岩辺から聴こえてくる。映画の中で唯一のまばゆい太陽の光が描かれる。青い海と白い砂、光と少女。モニカ・ヴィッティの虚ろさとは対照的だ。夢のような美しい寓話。船はどこから来たのか?美しき歌声とは?現実の灰色の虚無的世界と正反対の光に満ちた自然の島。

そして、ジュリアーナとコラドとの情事が描かれるが、その情事の果てになど何もない。ただ満たされぬ不安があるだけ。ラストは冒頭と同じように、ジュリアーナは息子と工場の前にやってくる。黄色い煙が流れ続ける工場の荒涼とした風景が映されて終わる。まさにジュリアーナの心象風景としての虚無的な美しさに満ちた映画なのだ。

アントニオーニ初のカラー作品。抑えた色調の映像と赤や白など計算された色彩設計が見事で、モニカ・ヴィッティともども美しい。
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モニカ・ヴィッティの半開きの口がたまらない。


原題 Il Deserto Rosso
製作年 1964年
製作国 イタリア/フランス
配給 東和
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ、トニーノ・グエッラ
撮影:カルロ・ディ・パルマ
音楽:ジョヴァンニ・フスコ
キャスト:モニカ・ヴィッティ、リチャード・ハリス、カルロ・キオネッティ

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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