「父/パードレ・パドローネ」タヴィアーニ兄弟

父

タヴィアーニ兄弟の初期の作品。言語学者カヴィーノの自伝的物語。厳しい自然を舞台にした<父権性>についての映画だ。

言語学者になったカヴィーノの語りから始まり、貧しい羊飼いだった父が少年カヴィーノを小学校の教室から連れ出す場面になる。映画の象徴的な場面だ。「教育など必要ない」とばかりに少年を連れ出す父。おしっこを漏らす少年。他の子どもたちに笑われ、杖で机を叩き怒る父。沈黙する子供たち。

厳しい荒地であるサルデーニャ島で羊の世話をさせるために、息子を山小屋に住まわせる。山の中で森や川の音を聴きながら、荒涼たる自然の中で一人、羊の世話をするカヴィーノ少年。何度も逃げ出そうとするが、厳しい父は暴力で服従を強いる。羊のミルクを絞っていても、糞をされて羊にもバカにされる(この場面、羊の独白もあるのが面白い。「優しく乳房を触らないからよ」と羊のナレーションが入るのだ!)。孤独な少年は、旅芸人のアコーディオンの音に惹かれ、壊れたアコーディオンと羊2匹を交換する。

カヴィーノは青年となり、村の若者たちと一緒にドイツへの移住を決意するが、父親の了解のサインが得られず断念。そして軍隊に入る。そこで初めて言語を覚える。字も書けない文盲のカヴィーノは、軍隊で友に出会い、イタリア語、ラテン語、ギリシャ語を学び、言語学者になることを夢見る。しかし、故郷に戻っても父の賛成は得られない。畑仕事を強制され、相変わらず暴力で服従させようとする父。ついに、カヴィーノは、父と争い、家を出て行く…。

昨今、日本では教育現場やスポーツ現場での体罰が問題になっている。暴力では何も育たない。この父のように強権で服従させることは、羊に対する態度と同じこと。親子は羊を飼うようにいかない。羊だって、優しくされないと乳も出さないのだ。

父親役のオメロ・アントヌッティの存在感が素晴らしい。(オメロ・アントヌッティは『エル・スール』でも厳格なお父さん役ね。)息子に対する容赦のない暴力。それを陰湿に描くのではなく、圧倒的な自然、荒涼たる大地を背景に、そういうやり方しか息子を教育できない不器用な父として描かれる。息子を叱るために小屋の周りを追いかけまわすシーンはユーモラスでさえある。厳しい自然の前では、生きていくことは厳しさも必要だ。ただ、そのことを教えのに、獣のようにしか息子を扱えないのだ。獣姦シーンなどの性もユーモラスに描かれる。タヴィアーニ兄弟独特の自然の大きさとそこで生きる人間へのあたたかい眼差しがある。

サルデーニャ島には、方言のサルデーニャ語があるようだ。20歳まで文字を知らずに育った青年は、軍隊で辞書を暗記し、言語学者になった。言葉は地域とともにある。沈黙と自然の音。暴力と言語によるコミュニケーション。人が生きていくうえでのシンプルな問題がここにはある。音や音楽の使い方が面白い。



原題 PADRE PADRONE
製作年 1977年
製作国 イタリア
配給 フランス映画社
監督:パオロ・タヴィアーニ、ビットリオ・タヴィアーニ
製作:ジュリアーニ・G・デ・ネグリ
原作:ガビーノ・レッダ
撮影:マリオ・マシーニ
音楽:エジスト・マッキ、
美術:ジョバンニ・ズバッラ
キャスト:オメロ・アントヌッティ、サベリオ・マルコーネ

☆☆☆☆4
(チ)
スポンサーサイト

テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
130位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
60位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター