「脳はこんなに悩ましい」池谷裕二×中村うさぎ

脳は


「私とは何?」「人間とは何か?」という永遠に尽きない問いをめぐって、脳の話を中心にテンポよく展開される対談本。これまでの数々の最新研究の脳科学の本を出してきた池谷裕二氏も自ら最も楽しかった本だと自画自賛。驚きの遺伝子診断から科学の限界まで、さまざまな考えるヒントがここにある。

この本を読んで一番実感したのは、人間の身体感覚も脳の判断もあらゆることは、曖昧でいい加減なもの。思い込みや幻想(イリュージョン)であり、そのアバウトさこそが人間を進化させ、人類を発展させてきたのだということだ。だから、何でもアリだし、厳密にわからなくてもいいのだし、曖昧なままでいいのだということだ。言葉で縛られ、決めつけることで思考は停止し、逆に身体が脳をだまし、言葉で自分を操ればいいのだ。そして、入力よりも<出力>こそが大事なのだと思った。

以下は本を読んだメモである。

女性は「化粧」を日常的にすることで、他人から見た私がどう見えるかを客観的に意識する傾向がある。ただこれは、脳の問題なのか、社会習慣から身についたものなのか、まだわからない。

隠れてセックスするのは人間だけ。動物は公開セックスであり、多くが乱交。生まれてきた子の父親が分からないのが普通。排卵期以外にセックスするのも人間だけ。人間は動物界の変質者。

動物は他者の行動を予測できるけれど、その観察を自分に向けることはしない。自意識は人間だけ。自分を見つめるのはヒトならではの行為。

「価値の転移」。ランプがついたらエサをもらえると、ランプに快感を覚える。本来それ自体価値のないものに、価値を見出す。ブランドやお金、フェティシズム。ブランド性やカリスマ性を空虚なことだと否定するのは、人間そのものを否定すること。

男性の思考はストレートで単純だから、明快な社会のルールやスキームをつくりやすい。女性は直感が優れ、新しいアイディアも女性が方が思いつきやすく、相手の表情を読みとる能力も高い。
ただ脳の性差は微小なもの。「同じ」より「違う」に目が行きやすい。

「美しい」には法則がある。べき則。自然界を貫く基本ルール。秩序。黄金比率。「心地いい」と感じる法則。

ヒトには「言語表現ができるから、伝えたいことが生まれる」という側面がある。「覚えるためには出力せよ」。
人格は「環境」という時空間が作るもの。「心は環境に散在する」。やる気はやりはじめることによって出てくる。「身体に脳が追随する」。「強く念じると実現される」。

バイブレーターで「筋紡錘」という感覚器を混乱させ、腕が短くなったように感じるたり、鼻が高くなったように感じたりする。身体の認知もまた柔軟性に富んでいる。

「グーグルを使うようになって知識を身につけなくなった」と「退化」を断言するのではなく、膨大な知識を持ち歩けるようになったことで、違う人間の能力が開花する可能性もある。新しいツールを怖がらず、時代の変化に積極的に馴染んでいくことの方が、未使用だった脳回路に新たな胎動が芽生えるかもしれない。

不安は向上心と表裏一体。犬や猫は他者と自分を比較しない。人間だけが他者と自分を比較する。言語化すると考えが整理される。話し合うことでアイディアも生まれる。

人間の自由意志もイリュージョン。自由なんて存在しないのに、あたかも実在するように感じる。「我」という自意識もイリュージョン。小さい頃から無人島で一人で生活していたら、心も生まれない。自分の姿もわからない。言葉もどう使うのかわからない。他者がいて、初めて「私」という概念が成り立つ。

日本語の主体性の薄さ。「コップが割れた」。コップに主体性があるかのようだ。英語は「I broke・・・」なのに。

言葉をあてがうことで、思考停止になることもある。「虹は七色」と教えられたから七色に見える。

人類の進化には必然性があったのではなく、自然則プログラムの偶然のバグのようなもの。驚異的な確率の末、偶然に生まれた人類。仮に知的生命体が宇宙にいたとしても、人間と同じ脳の使い方をしているとは限らない。知能の概念が違うかもしれない。

人間の遺伝子研究はどんどん進んでいて、病気の遺伝的危険因子など知ることで、予防に役立てたりも出来る。一方、遺伝子ですべてが決まるわけではない。脳は遺伝子で書かれている決め事から自由になれる「可塑性」という能力がある。

「AはBである」だから「BはAである」と推論してしまうのは人間だけ。チンパンジーはその逆の発想はできない。しかし、チンパンジーの方が正確。「AならばBである」だから「BならばAである」という勘違い、勝手に作るストーリー。人間のその大雑把さこそが、人類の進歩を生んだ。勘違いできる能力こそが「心」の豊かさの起源。あるコップを見て、コップという概念を創るためには、「コップ」という単語を生み出すための錯誤が必要。

科学もまた万能ではない。ヒトの貧弱な脳でもかろうじて歯がたちそうな部分にフォーカスを絞って、都合よく理論的枠組みをこしらえて、その変倍レンズを通して自然を解釈する・・・それが科学。この物質世界をすべて理解できるわけはない。科学で答えられるのは「Why」ではなく、「How」。「Why」は、「神様がそう作ったから」としか言いようがない。科学は「自然がいかに偉大かを探る学問」である。

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