「まわり道」ヴィム・ヴェンダース

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かつて、この映画を観た時、列車の窓越しのシーンが印象的だった。並行して走る二つの列車。窓越しに見ていると、向こうの列車の窓からこちらを見ている女がいる。列車は並行してしばらく走るが、やがて離れていく。列車を使ったシーンは、列車の窓と並行する道での車や自転車などを使ったリ、走ったりの別れの移動撮影などはあるけれど、このように二つの列車を同時に並行して走らせて、離れていく場面はあまり見たことがなかった。なんだかいいなぁと思ったのだ。この映画では、この時点で二人は全く知り合いでもない。ただ視線が重なるのだ。

この映画は、そんな見ず知らずの他人同士が旅の過程で同行し、交わり、すれ違い、遠ざかっていく…ただそれだけの物語だ。並行して列車が走り、離れていくように、少しの間、人と人とは交わるが、やがて離れていく。

作家志望の男ヴィルヘルムは、母の元である故郷を離れ、旅に出る。作家になるために。列車で向かい合わせの大道芸人の男ラエルテス(ハンス・クリスティアン・ブレヒ)と少女のミニョン(ナスターシャ・キンスキー)と知り合う。二人に切符代をたかられたのだ。この男は、元ナチ将校であることが後で分かる。ミニョンは口がきけない妖しい美少女であり、彼女の強い無言の視線が映画で大きな要素を占めている。(14歳のナスターシャ・キンスキーのデビュー作であり、美しく輝いている。)さらに、列車の見つめ合った女は女優のテレーゼ・ファルナー(ハンナ・シグラ)だと男に教えられ、電話番号のメモを車掌から渡される。列車を降りてボンの街で、ヴィルヘルムは女優に電話をし、女と出会う。さらに、自作を詩を朗読する男(ペーター・カーン)もなぜだかついてきて、旅は3人から4人、5人と増えていく。さらに、自称詩人の男の叔父だという屋敷を訪れると、人違いだったことがわかる。しかし、その屋敷の実業家の男(イヴァン・デスニー)は妻に先立たれ、自殺するところだったと言い、彼らを屋敷に迎え入れる。6人の人物がモノが散乱した古びた屋敷で奇妙な一夜を過ごす。

夢の話、孤独の話、妻の死、政治と詩、自殺、諍い、殺意。バスから列車へ、そして歩きながら、車に乗りながら移動し続ける登場人物たち。『ゴールキーパーの不安』『都会のアリス』からこの『まわり道』、さらに『さすらい』、そして『パリ、テキサス』まで、ヴェンダース的主人公は、彷徨い続ける。何かを探し求めて。しかし、何も見つかりはしない。ぐるぐるとまわり道をし、ダラダラと歩き回り、少女やいろんな人物と出会い、別れ、旅を続ける。旅を続けること自体が、存在証明であるかのように。けっして旅を通じて自己実現なんてできやしない。

山道をダラダラといろんな相手と話しながら歩く長回しのシーンが印象的。後半で、自殺や諍いや突然の殺意など劇的な要素も盛り込まれるが、基本的にはドラマは何も起きない。風景がただ流れ、人がすれ違っていくだけだ。
たいした葛藤も起きない。不安と孤独、書くこと、自省、風景、夢、死。ミケランジェロ・アントニオーニ的な影響もあるヴェンダースの淡々としたロードムービーである。


原題 FALSCHE BEWEGUNG
     THE WRONG MOVEMENT[米] FAUX MOUVEMENT[仏]
製作年 1975年
製作国 ドイツ
上映時間 104分
監督:ビム・ヴェンダース
製作総指揮:ヨアヒム・フォン・メンゲルスハオゼン
製作:ペーター・ジュネー
原作:ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』
脚本:ペーター・ハントケ
撮影:マルティン・シェーファー
キャスト:リュディガー・フォーグラー、ハンナ・シグラ、ナスターシャ・キンスキー、ハンス・クリスティアン・ブレヒ、ペーター・カーン、イヴァン・デスニー

☆☆☆☆☆5
(マ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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