「リアル 完全なる首長竜の日」黒沢清

首長竜

6月1日公開の作品を試写会で観た。ネタバレにならないように気をつけてレビューを。

ラブストーリー、SF、ホラー、ミステリー、幻想アドベンチャー、心理劇、活劇など特定のジャンルに収まりきらない黒沢清の快作。光、水、風、セットやロケの映像の切り取り方、そして演技の二重性など細部まで計算され尽くした作品。特に突然、ふっと幻覚が見えるホラー的な要素はさすがに巧い。

最初、テラスに出て植物に水をやっている佐藤健に光に当たっていて露光オーバー気味、手前の綾瀬はるかは室内の光。手前と向こう、中と外の二つの世界が一つの画面に収まっている。その二重性と光の当たり方の違い。オープニングの場面から象徴的だ。

二人の世界をつなぐものとして、昏睡状態にある相手の意識下の脳の中に入り込む「センシング」という近未来的医療の仕掛けがこの映画の前提だ。意識下のバーチャル空間と現実が交錯していく。そしてその境目が不明瞭になっていくという物語。

意識下のバーチャル世界で描かれる部屋の中の水。さらに水に濡れた少年の幻覚が物語を核心へと導いていく。光や霧に包まれた空間、子供時代の島の思い出。病院の廊下やスカッシュをする佐藤健と中谷美紀のしゃべり方など、いろんな違和感が少しずつ広がっていく。

後半は予想外のアクション活劇まで展開され、え~っ?って感じもあるが、ラブストーリーとしてちゃんと成立している。首長竜が意味するものとは何か?などいろいろ考えることも可能だ。街が歪んでいくこの世の終わりのような終末観は、前作『トウキョウソナタ』でも描かれていたが、今回はリゾート開発による島の荒れ果てた廃墟を文明批評として捉え、その象徴としての首長竜とも読みとれるが、そんな観方は映画をつまらなくさせるだけだ。

反復されるリアルとバーチャルの空間、病院の廊下やスカッシュルーム、そして二人の部屋、さらにマンションの廊下、島の風景など、いろいろな場面が何度も反復され、少しずつその空間の意味が違ったものになっていく感じが面白い。特にマンションの部屋には何度も向う。そして部屋の扉を何度も開けるのだ。

人はこのように意識下の世界を何度もノックするのだろう。過去の経験は何度も反復され、意識上や意識下でいろんな意味付けがされる。忘れ去りたい忌まわしい過去は海の底で封印されていた。現実をどうとらえるかは、過去の扉を開くその意識のあり方によって、いくらでも変わっていくのだ。現実が一瞬にしてリアリティを失い、幻になってしまうように、意識のあり方によって、その輪郭が曖昧になっていくことを感じさせてくれる映画だ。


製作年 2013年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 127分
監督:黒沢清
企画プロデュース:平野隆
原作:乾緑郎
脚本:黒沢清、田中幸子
音楽:羽岡佳
キャスト:佐藤健、綾瀬はるか、オダギリジョー、染谷将太、堀部圭亮、松重豊、小泉今日子、中谷美紀

☆☆☆☆4
(リ)
スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : ミステリー ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
136位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
61位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター